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中学3年生の冬、母が亡くなった。
仲の良い父と母に愛されていた私は、家族3人で過ごす時間が大好きだった。
いつまでも当たり前のように続くと思っていた幸せな日常は、母の死を境に一転する。
優しかった父は、"私" を見なくなった。
母によく似ていた私のことを母だと思い込むようになった。
違う、私はAだよ。そう言えば、お前は誰だと頬を
右利きの父が思い切り振りかぶった手のひらは、なんの躊躇いもなく私の左頬を打った。
バチン!という大きな音、衝撃で目の前はチカチカして、身体は床に叩きつけられる。
少し遅れてやってくるビリビリとした痛みは熱を帯びていて、切れた口の中は血の味がした。
__母が亡くなり、それと同時に父の中で私の存在が無くなった。
***
半年が過ぎ、私は高校生活を送っていた。
母に似た私の姿さえ目にしなければ正気でいられた父は、仕事を続け、私の学費も払ってくれている。
20時に仕事から帰り23時には寝る父。
なんとか家で顔を合わせないよう私は夜の外出が増えた。
それでも、顔を合わせることを避けられないときもある。
顔、背中、腕と、傷は増えるけど病院には行けず、誰にも相談できなかった。
怪我の理由を聞かれ「父に虐待されています」なんて言ってしまえば、父は捕まってしまうかもしれない。
こんな状態になってしまったけど、私の大事なたった1人の家族なのだ。
優しかった頃の父を知っているからこそ、痛くても辛くても誰にも言えなかった。
***
夜中の1時。
目が覚めた私は、水が飲みたくて台所に向かう。
父も寝ている時間帯だ。
物音を立てて起こさないよう気をつけて行動しないと。
そう意識していたのに、ガラスのコップを使った私は馬鹿だった。
手から滑り落ちたコップが、床に落ちてガシャンと割れる。
「……!」
どうしよう、どうしよう、お願い、起きてこないで。
台所で
でも、駄目だった。
「…ユナ?起きていたのか」
目を覚ましてしまった父は、私の顔を見て母の名を呼ぶ。
だけど母ではないと気づくと、蹲る私の首を掴んだ。
苦しい。爪が皮膚に刺さって、痛い。
腕でなんとか父の身体を押し、バランスを崩した父の手の力が緩んだ隙に私はその場から逃げた。
家を飛び出して、息が切れるまで走る。
涙で視界が滲んでいた。
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作者名:naguno | 作成日時:2020年10月14日 20時