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「A…顔色悪いけど大丈夫？」
日に日に蓄積されていく残業時間と睡眠不足による目の下のくま。
心配してくれた同僚に、大丈夫、と笑顔を向けたが、実を言うと今日は朝から目眩がしていて調子は良くなかった。
心做しか時間が経つにつれて頭が思うように回らなくなってきている。
今し方開いたフォルダを閉じて、パソコンの電源を落とした。
やっぱり今日はもう帰ろう。
身体が悲鳴をあげている気がする。
＊＊＊
家に帰りシャワーを浴びて、ベッドに仰向けになる。
疲れた身体がマットレスに沈んでいくようだった。
このまま寝てしまいたいと思ったが、かなりお腹が空いている。
夕食は食べていないが、ご飯より甘いスイーツが食べたい気分。
しかしそう都合よく家にスイーツなどないので、睡眠欲よりも今は食欲が勝った私はお財布を手に家を出た。
エレベーターの▼マークのボタンを押して、エレベーターがくるのを待つ。
また少し目眩がして壁に手をついたとき、ポーンと音がなって上がってきたエレベーターのドアが開いた。
「あ、Aさん」
そこから出てきたのは、テヒョンさんだった。
目にかかる長さだった前髪はかき上げてあって、一重だけどぱっちりと大きい瞳がよく見えた。
スウェット姿のテヒョンさんは、右手にコンビニの袋をぶら下げている。
「テヒョンさん、こんばんは」
「昨日ぶりだね。コンビニ行くの？」
「はい、お腹空いちゃって」
ショートパンツにTシャツというラフな格好の私を見て行き先を察したらしいテヒョンさんは、エレベーターに乗った私に「気をつけてね」と手を振った。
私もつられて小さく手を振り、ドアを閉めるボタンを押そうとしたそのとき。
降りたはずのテヒョンさんがエレベーターに乗り込んできた。
え、なんで、と口に出しながらも私の指はボタンに触れてしまっていて、テヒョンさんも一緒に乗せてエレベーターは下がっていく。
エレベーターの中、少し前のめりになって真剣な表情で私の顔を覗き込んでくるテヒョンさんが小さく呟いた。
「…やっぱり、昨日より顔色悪い」
エレベーターを降りてからもぴたりと私の横について歩くテヒョンさんを見上げれば、「コーラ買い忘れちゃったから」と笑った。
調子が悪くて不安な気持ちが大きかったけど、にか、と口を開いて笑う彼の笑顔に、少しだけ気持ちが楽になった気がした。
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作者名：naguno | 作成日時：2020年10月4日 12時
