おとなりさん〈TH〉 (ページ5)

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21時を回った頃、入口のベルがカランコロンと音を立てて来客を知らせる。

バックヤードから顔を出せば、入口付近に居たスタッフが既に対応していたので戻ろうと思ったそのとき、俺は思わず足を止めた。

席に座ったその客は、見覚えのある顔だったのだ。

1ヶ月程前にマンションの隣の部屋に引越してきた人……名前は確か、ユンさん。

シフォンブラウスにスカート、足元はパンプス。
フォーマルな服装だが、もしかして仕事帰りだろうか。

以前2回ほど顔を合わせたことがあったが、ラフな服装しか見たことがなかったのでこうして見ると印象がかなり違う。
てっきり学生かと思っていた。

「テヒョンくん、3番テーブルにコーヒーお願い」
「了解です」

コーヒーとスフレパンケーキを注文した彼女は、トートバッグからパソコンを取り出す。

カフェでパソコンをする客はちらほら見かけるが、彼女もそのタイプらしい。

…いや、まあ、どんなタイプでもいいか。

なぜこんなに彼女を気にして見ているんだと思ったが、平日のこの時間で客が少ないから目につきやすいということにしておく。

コーヒーを淹れながら、よくこんな苦いもの飲めるなぁとカップの中で揺れる黒い液体を見つめた。

ミルクをひとつソーサーに添えて、彼女が座るテーブルへと運ぶ。

「お待たせいたしました」

俺の声に、彼女は一瞬だけ顔を上げたが「ありがとうございます」と礼を言うとすぐに視線をパソコンに戻した。

かなり集中しているらしい彼女は、俺には気づかなかったようだ。

元々色が白いのか、体調が悪いのか、もしくはその両方なのか、顔色が悪い。
おまけに目の下にはくまが出来ている。

テーブルの上に広げられた紙を見るに、仕事の資料だろうか。

仕事帰りにカフェで仕事か…。
しかも寝不足っぽい。

慣れた手つきでキーボードを打っていた彼女は一旦手を止め、ミルクを加えたコーヒーを口につけた。

「にがっ…」

小さな声が漏れたのと同時に顔を顰めた彼女。

もしかして、コーヒーは飲めないけど眠気覚ましのために頼んだのだろうか。

え、なんかそれ、可愛いな…

焼きあがったスフレパンケーキを運ぼうとしていたスタッフにミルクを2つ渡し、不思議な顔をされたけど「3番テーブルに！」とこっそり耳打ちをしておいた。

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