ｰ１７(TH)ｰ ページ17
.
『ごめん……今のは、忘れて』
あのとき、驚いた彼女の表情を見て、咄嗟に口から出たのはそんな言葉だった。
立ちすくむ彼女を残して俺は部屋に入ってしまって、後悔した。
勝手にキスをして、それを忘れてくれだなんて言って。
『……最悪だ、俺』
＿＿＿＿
「テヒョンくん、ケチャップこぼしてるよ」
カフェのスタッフに声をかけられてはっとする。
すみません、と謝り足元に垂れているケチャップを拭き取った。
「危うく殺人現場になるところだったわ。…って、テヒョンくん、それ中濃ソース！チョコレートソースはこっち！」
「…すみません」
あれから1週間。
Aさんと会うことはなく、あの日のことを謝れずにいた。
連絡をして会おうと思えば会えるけど、どう切り出せばいいのか分からないまま、時間だけが過ぎていく。
彼女はもう俺の顔なんて見たくないかもしれない。
仕事も集中できなくて、家に帰っても考えることは彼女のことばかりだ。
「お先に失礼します」
「はい、お疲れさまー……あ、テヒョンくん」
23時、上がろうとしたところをスタッフさんに呼び止められて振り返る。
「これ、余っちゃったから良かったら食べて」
そう言って渡されたのは、ピンク、黄色、水色と、色とりどりのマカロン。
パフェのトッピングに使っている、小さなサイズのものだ。
すぐにAさんの顔が頭に浮かんだ。
コンビニでマカロン買ってたな、って。
お礼を言って潰れないように鞄に仕舞い、店を出た。
だんだん涼しくなってきたな、と思いながら、歩き慣れた帰り道を歩く。
マンションの入口が視界に入る距離まで来たとき、入口から出てくる1人の女性の姿が見えた。
距離はあったけど、すぐにAさんだと分かった。
間違いない。
そう確信したときには走り出していた。
「Aさんっ！」
大きな声で名前を呼べば、目を丸くして俺を振り返るAさん。
スウェット姿でマスクをし、財布だけ手にした彼女はコンビニに向かう途中だったようだ。
「……テヒョンさん…」
小さく俺の名前を呼んだ彼女は、俺と少し距離を置いたところで立ち止まる。
線を引かれたんだと、思った。
分かってはいたけど、自分が悪いのも分かっているけど、目の当たりにすると
だけどこのまま何も無かったように全て終わってしまうのは嫌だ。
「話したいことがあるんだ」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 815人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「BTS」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：naguno | 作成日時：2020年10月4日 12時
