そこに愛はない。

【第九話】　脇サイド ページ10

ピコン

仕事終わり、タクシーの中で鳴ったスマホを確認する。

まる:今から言ってくるわ。

あぁ……

(あー、頑張れよ。)

俺って、クズなんだ。
俺はAとこんな関係になる前から、全部知っていた。

____________________________________

“ちょっとさ、いー感じの子見付けたんよね”

“マジ？でもお前彼女おるやん”

“バレなきゃへーきだって笑 つか、なんお前急にそんなこと言っとん笑……あ、ほらこの子”

その写真を見てすぐに分かった。

“えっ……”

“なんかこの前クラブで会ったんやけどー、友達に連れられてって感じであんま乗り気じゃなさそうやったんよね〜。やけんそのウブな感じが可愛いっつーか、ま、今カノちょっと飽きてきたけん、気晴らし気晴らし笑”

そう笑うまるの声はほとんど耳に入ってこなかった。
これは確かにAだ。

高校生以来のその顔は少し大人びていたが、垂れ目で丸っこい目や小さな鼻、綺麗な顔立ちはそのままだった。

“脇くん！”

俺はあの頃のAを思い出した。
今も昔も、ずっと忘れられねー奴。

忘れるために、色んな女と色んなことした。
やっと忘れかけてたのに、また出会ってしまった。

“……初めま……って、脇、くん……！？”

“おう、久しぶりやね、”

今度は友達の、「浮気相手」として。
____________________________________

Aは今も、自分がまるの浮気相手で、本命の彼女が自分じゃないって知らない。

俺はというと……

ピコン

また携帯が鳴り、画面に目をやる。

A:久しぶりにりゅーに誘われた！どうしよう脇くん……！(; ﾟ ﾛﾟ)

『あーーー……くっそ……』

ガシガシと頭を掻いて、返信に迷う。

『すいません、やっぱここで停めて下さい。』

【第十話】　まるサイド→←【第八話】

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す