モブな恋。２【モブサイコ100】

カレー臭 ページ42

＊＊＊＊＊


「ひゃっ！ ……冷たいよモブくん〜」

「そ、そんなのぼくに言われても……」

濡れタオルはひんやりしていて、火照った体にじんわりと染みていく。

「……あ。 でも冷たい方が気持ちいい」

「それはよかった、です……」

恥ずかしそうに呟くモブくん。


「おねえさん相手に緊張しないでいいのに」と、苦笑いを浮かべると、モブくんはすぐに反論してきた。

「お、おねえさんは、むぼーびすぎるの！」

無防備すぎる、か……。

「でもモブくんって、弟みたいで可愛いんだよなぁ〜。 年だって三歳も離れてるし」

「三歳しか離れてないんだよ！ ぼ、ぼくが中学生になったら、おねえさんの身長おいこしてるに決まってるもん！」

「言ったなモブくん〜！」

「うん！ ……だ、だから、それまでぼくのそばにいてね！？」

勢いよく告げてくるモブくん。 残念だけど……それは約束しかねる。

だから私は、「あはは」と笑って話題を逸らした。

「中学生なんて、思春期真っ只中じゃないの。その時のモブくんは恋に夢中なんじゃないかな。 おねえさんのこと、おばさんって言ったりして」

「言わないよっ。 おねえさんは、おねえさんだもん」

「本当、レディー扱いしてくれるなぁ。 モブくんは」

どこぞの詐欺師も、これくらい優しかったらいいのに。


「おねえさん、拭き終わったよ」

「あ。 ありがとう、モブくん。 助かりました」

「う、ううん……」


最後にサササッとお腹や足やら拭いて、私は霊幻さんのジャージに着替えた。

「……な、なんか、霊幻さんの匂いがする……」

いつもの香水の匂いとは違う、生のあの人の匂いに、少し不思議な気分になる。

「匂い」というワードに反応したのか、モブくんは「そういえばね」と口を開く。

「たまに、師匠から酸っぱいにおいがするの。 疲れてる時とか」

「モブくん、それ絶対霊幻さんに言っちゃダメだぞ」


うん、まぁ……いわゆる加齢臭なんだろうな。

「えっ？ カレー臭？」

あ、やばい。 口に出してた。

「カレーのにおいじゃないよ？ なんか……ブルーチーズ？みたいな」

「よーし、おねえさん疲れたから寝ちゃおうかな！ モブくんも小学生なんだから早めに寝てね！ うん、おやすみ！」

「あっ、うん。 おやすみ！」


毛布を被り、私は目を閉じる。


……霊幻さんごめんなさい、と唱えながら。

謎の女→←霊幻さんのモテ事情

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す