不貞腐れ ページ5
「いや、悪いけど今日は早く帰りたくて……」
家に彼女がいるかもしれないし。
「えー、ちょっとぐらいいいじゃん」
機嫌良さそうだった安藤さんの顔がみるみる曇っていく。
感情が読み取りやすいな。 いや、わざと感情を表に出しているのかもしれない。 こうすれば人が思い通りに動いてくれると知っているのだろう。
それでも僕は引くわけにはいかない。
「ごめんね。 また今度にしよう」
謝罪と共に妥協案を出すと、安藤さんの不満そうな表情が少しだけ和らいだ。
「えー、まあ、それならいいよ」
「ありがとう。 じゃあ僕は帰るね」
「うん……あ、待って」
突然、ぐいっと腕を引っ張られた。 思わず体勢を崩した僕は、安藤さんのもとへと身を引き寄せられてしまう。
ふわりと漂う香水の香りに、鳥肌が立つ。
以前は何も感じなかったはずなのに。
背伸びをして僕の耳元へと口を寄せた安藤さんは、こしょこしょと吐息を交えて呟く。
「デートの約束。 絶対だよ」
いつからデートになったんだ。 そう突っ込みたいのを我慢して、彼女のプライドを傷つけないようにやんわりと腕を払った。
「……ああ。 それじゃあ」
短く返事をして、僕は足早にその場を離れる。
心がじゃりじゃりとしていた。
*****
A
ガチャリと玄関の鍵が開く音がして、閉じていた瞼を開いた。
「ただいま。 いるかい?」
リビングの扉が開くと同時に、テルくんの声が聞こえる。
「……ん、いるよ」
ベッドと壁の狭い隙間から顔を覗かせると、テルくんは目を丸くして私の元に歩み寄る。
「なんでそんな所でうずくまっているんだよ。 子供みたいにさ」
「別に……」
唇を尖らせて彼を見上げる。
帰宅が早いな。 てっきり安藤さんや友達と遊びに出かけると思ったのに。
「そんな不満そうにして、何もない訳がないだろう」
「…………」
……うう、だんだんと不貞腐れているのが恥ずかしくなってきた。 本当に子供みたいだ。
ここは正直に聞いてしまおう。
「……花沢くんは安藤さんと付き合っているの?」
「いや、付き合っていないけど」
返事が早い。
付き合っていないんだ、そっか。
内心安堵した私に向けて、テルくんは怪訝そうに口を開いた。
「どうしてそんなこと気にするんだ?」
「え」
「君こそ、竹中君とやらはどんな関係なんだ?」
「ええっ!?」
全く予想だにしていなかった質問に、私は大声をあげてしまう。
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オトナノジジョウ(プロフ) - 塩飴さん» ありがとうございます。更新がゆっくりすぎて申し訳ありません。 (10月6日 5時) (レス) id: aad4b6e5d2 (このIDを非表示/違反報告)
塩飴(プロフ) - ほんっっとに面白いです。更新待ってます。 (7月23日 22時) (レス) @page1 id: 0795a94fad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:オトナノジジョウ | 作成日時:2023年6月17日 20時