【ユーリ!!!】野球女と銀盤の王子2 (ページ30)

今日:10 hit、昨日:5 hit、合計:74,677 hit

79 ページ30

本滑走前のウォームアップをしている勇利の動く姿をぼーっと眺めている。

　緊張してるのかな？大丈夫かな？

　ウォームアップ終わってこっちきたらなんて声かけてあげよう。

　テニスの試合がある時コーチはなんて言ってくれてたっけ。

　野球の監督は試合前なんて言うんだろう。サッカーの監督は？

　テニスは試合中にコーチからのアドバイスは基本的に禁止されてるけど、コートに入る前に脈拍測って緊張してるとか色々アドバイス貰ったっけ。

　そんな事を考えていると6分間のウォームアップはあっという間で、勇利がこちらに向かってきた。

　あー何か言わなくちゃ！そう思っていたら、ドリンクを飲んでいる勇利にヴィクトルが話しかける。

「勇利、Aの前に立って後ろ向いて」

　何をする気なの？疑問に思う私の前に勇利は背中を向ける。

　本当に何をするのかと思いヴィクトルの方へ首を向けると、ヴィクトルが覆いかぶさってきた。

　ちょっと、何？！私を真ん中にして勇利の事抱きしめてる？！

　カシャカシャとカメラのシャッターが切れる音が四方八方からしてめちゃくちゃだ。

　何この状況！こんな年齢になって妙な恥ずかしさがこみ上げて来る。

　すると、上からヴィクトルの囁きが聞こえる。

「全力で俺を誘惑しろ」

　何言ってんねん。

　呆れながら上から聞こえてくる囁きを私は聞いている。

　勇利はどんな心情なんだろう。

　あ、そうだ。脈拍測っておこう。

　師弟サンドイッチの真ん中にいる私はそのままの体勢で勇利の手を取り手首に触れる。

　勇利の腕が跳ねたが構わない。すぐにわかる。

「勇利、思ったより緊張してないね」

　思ったより脈拍が速くない。むしろこの局面では落ち着いてる方なのか？

　ヴィクトルには聞かれたくないので日本語で話しかける。

「ジャンプと演技、どっちも大切だと思うけどジャンプに気を取られて演技の事を忘れないようにね。逆もしかり」

　私が言えるのは基本的な事ぐらいか。

　こういうことはヴィクトルは言わない。

　というより彼はどちらかに気を取られる事はなさそうだ。

　そして、そういう事があると言うことを失念していそうだ。

　頑張ってと勇利の腕を放すと、ヴィクトルが離れたので私もそそくさとヴィクトルの横に並ぶ。

　無言で勇利に手を振ると彼はリンクの中心に滑って行った。

　さぁ、今からこれからが始まる。

　私はすでにコーヒーが飲みたい。