【ユーリ!!!】野球女と銀盤の王子2 (ページ29)

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さて、時間もあっという間に過ぎて本番が始まるという雰囲気に会場が包まれている。

　私は練習までの白のタートルネックにぱんつというラフな服装から、下だけ以前購入したグレーのストライプのパンツを履き直して、ジャケットを羽織っている。

　シャツを着ると子どもっぽく見えて、ヴィクトルの横に立つと不釣り合いになると感じたのでやめた。

　そんな格好でひとり外に出て本日何本目かのコーヒーを飲んでいると前からミナコさんが私を見つけて声を上げる。

「A！」

「ミナコさん！」

　来るのは知っていたけど、ミナコさんに自分がキッチリ目の服装をしているのを見られて少し恥ずかしく感じる。

　手を振る私に少し駆け足で来てくれるミナコさんからの一言。

「アンタ、気合い入ってるわね」

　ほら、やっぱりそう言われた。

「あは、まぁね」

　そりゃヴィクトルも気合い入った服装してるのにこっちも気合い入れなきゃ横で立ってたら不釣り合いだとは言えず、適当に話を流した。

　立ち話もなんだからと西郡家の旦那さんも含め三人で中に入る。

　少し館内で話していると、慌てた様子で私を見つけた勇利が駆け寄って来る。

「A！ヴィクトル見なかった？」

「コーヒー飲んでたから分かんないや」

　どうしよう本番まで少ししかないのにと勇利は焦った様子だったのだが、そこに女性の悲鳴にも似た歓声が館内の空気を揺らしている。

　そこの空気を揺らしている原因を見て勇利はギョッとする。

「なんで着替えてるの？！」

　練習の時とは一変してかっちりとした黒のスーツに身を包む彼は自分好きの塊にも見える。

「今日は俺の華々しいコーチお披露目試合だぞ。正装で然るべきだ。それにAもバッチリ決まってるだろ？」

「だよね？！なんかAも着替えてるって思ってたもん！」

　多くの女子に黄色い悲鳴を浴びる彼らを遠巻きに見ていたミナコさんは言う。

「選手より目立つわーあのロシア人コーチ」

　全くだ。私はミナコさんの言葉に苦笑いするしかなかった。

「Aーもうすぐ本番だから行くよー」

　勇利との会話が終わったのか強制終了したのかは分からないがリンクに入ろうとしている。

「あ、ミナコさん、西郡さん、じゃあまた！」

　待ってくれている二人に小走りで向かう私は少し後ろを向いて手を振ると、ミナコさんは手を振り返してくれていた。