赤に込める意味

初軍務 ページ34

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「来栖くん。こっちへ」
玄関に鍵をかけた所の私に呼びかけた彼は、出勤なのに、いつものスーツではなく軍服に指定のコートを着ている。心なしか、いつもより顔が険しい
「…緊張してます？」
「いや、顔を見せる行事の時に、君に優しく接しすぎるとだめだから今日はこんな感じかなーって思って」
彼はそう言って笑い、車のドアを開けてくれた
自分は、金曜に纏めた今回の行事の日程の総括を入れた鞄を持ち、軍服を着ている
「軍服、初めてですよ。帽子も…」
「まあ、今日の僕は軍人だからね。秘書の君も軍人でなくちゃ。君のサイズ探すの大変だったって愚痴られたけど」
車に乗り込んだ彼はそう言って隣の席から私の頭を撫でる
「チビで悪かったですね」彼にクスリと笑われた
大統領府への道中、私は彼を見つめていた
仕事ではカッコよくて、それ以外では優しくて、可愛くて、今日はもっとカッコよくて頼り甲斐がある、熟ずるい人だ
「そんなに僕ばっかり見ないでよ」
「すみません。余りに軍服姿がかっこいいので」
彼は顔を赤くした
「そう言うのずるいよ…」
「こっちのセリフですよ、大尉」
そう澄ましていうと、より一層赤くなった
大統領府に着いたら、公用車に乗り換えた。運転手と私達2人で車に乗る。一応、上司と補佐官という体を貫いた
軍事パレードは恙無く進行した。書類を纏めていて初めて、もう12月だと気付いたが、それに伴って外気は確かに冷たくなっていた。国歌斉唱で、彼の歌声が澄んでいて綺麗だと言うことを初めて知った。宣言する声で、彼がどんなに重いものを背負っているのかを再認識した。彼のマントが靡いたのを見て、彼の美しさを嫌というほど知った
「綺麗ですね」
私のその言葉が、彼に向けたものだと彼が気付く日は来ないだろうけど
「うん」
そう言って自国の兵を、様々な感情が入り混じったような複雑な顔で見つめている
「これも、僕のためなんだ。知ってた？」
「はい。弁えているつもりです」
「血税って、よく言ったものだよね」
塔の上から見下ろす隊列は、素晴らしいものだった。冬の空に、軍服の青や黒が似合っている。そして、数多並べられた国旗の赤は、それらとは違って暖かい
「ある意味、僕は僕でない。政府ではない。国民でもない。僕はその下にある赤なんだよ」
その下、とは国旗の赤のことだろう
「主義と愛国は食べられない…そうでしょう？」
「ああ、そうだった。ごめんね。当然の事だ」
彼はそう言ってまた口元にだけ笑みを浮かべた。

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