閑話 ページ38
小福ちゃんのお社の客間に全員がぐったりと座り込んでいる。
一人生き生きと手当てをする小福ちゃんは元気そのもので微笑ましい。
「この馬鹿の為にすまない。」
項垂れた夜ト様の背中を部屋の隅に座り込んで見つめる。雪音くんも夜ト様も、もう大丈夫そうだ。
「ひよりも、迷惑をかけたな。雪音も謝れ。」
「ごめん、ひより。」
二人揃って頭を下げるその風景こそ、いつかみた光景。
「(……私の居場所はこれで、無くなった。)」
ひよりさんが二人を掻き抱いて、三人は泣きそうに身を寄せあう。
「Aちゃんは、行かないの?」
小福ちゃんの優しさに思わず「行きたい。」と言ってしまうところだった。
「……私はいいの。」
あの場所のどこにも入る余地は無い。
「……A、さっきはすまなかった。」
「いいえ、兆麻さんには返しきれない恩があるので。」
不意にかけられた言葉に笑いかければ眼鏡の奥で目元にじわりと朱がさした。
「ちょ、ちょっとA!あんた意外とモテんじゃないの!」
真喩ちゃんが肩を揺すぶる。
「?、??」
「お、何だ何だ青春か?」
わらわらと、大黒さんや小福ちゃん達が詰め寄ってきて頭が混乱した。何かを感じ取った兆麻さんがその場を離れようとして、大黒さんに無理矢理座らされる。
「吐いちゃいなさいよぉ〜っ!」
小福ちゃんの悪い笑みが兆麻さんを襲った。
「……可愛い人だと、思って。」
きゃーっ!と女子陣に声が上がる。
「…………え、……あ、え?!」
ぶわりと赤くなって頭を抱えた。顔の良い人は何をしても様になると思ったが、妙に瞳に熱がこもっていたのはそういうことか。
「いや、ヴィーナは綺麗だからあまり可愛らしい人に免疫がないだけで……。」
「青いなあ……。」
頬に集まる熱を冷ましながら、目を伏せる。可愛らしいと、言ってくれる人がいるなんて思わなかったのだ。
「(私が普通の神器だったなら、こういう風に幸せになれたのだろうか。)」
「……何騒いでいるんだ?」
「内緒ーっ!」
夜ト様の介入に小福ちゃんが手で大きくばつを作る。まるで人間のようなこの感情に目眩がした。……苦しい。
「兆麻さんが、私のことを褒めて下さったんです。」
密やかな抵抗。
「?良かったな。」
無惨にも散った願望はぐさりぐさりと心を突き刺した。
「夜トちゃん、それは駄目。」
冷ややかな小福ちゃんの瞳。背中に嫌な汗が伝った。
小福ちゃんが、怒っている。
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まチョコ - 上手すぎやろ。喋り方までそっくり。面白いし感動した。 (2021年9月1日 18時) (レス) id: 310d4b66e7 (このIDを非表示/違反報告)
琉那(プロフ) - めっちゃ面白いです (2019年9月30日 21時) (レス) id: 60dcb24f8e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:桜狐 | 作成日時:2019年8月24日 23時