無力感 ページ30
額に滲んだ汗を濡らしたタオルで拭う。夜ト様の顔色は悪くなる一方で寒気がした。
「……、」
雪音くんとの縁を切ってください、と言えれば簡単だったが、私も夜ト様もあの子に懸ける思いは強い。
互いに言葉を発さず、静かに耐えていた。
「雪音くんは……?」
ひよりさんの声に夜ト様が気丈に振る舞う。
「雪音は家出した。天神のところにでも行ったんじゃないか?」
「!引き止めなかったんですか?!」
「使うときに側にあればいい。」
探しに走り出したひよりさんの後ろ姿を見届けて、私はゆっくりと目を閉じる。身を焦がすような痛みが体を刺していた。
早くけりをつけなければ。
消耗しきったこの人を守れる程の力は今、私にはないのだから。
「(せめてこのヤスみを浄化しきることが出来れば……。)」
雪音くんが戻らない限り側を離れる選択肢をとれないとはいえ、心だけが焦っていく。
この人を、護らなければ。
「A!」
どっ、と背中を打ち付けてずり落ちる。呼吸が一瞬止まって頭の中で警戒音が鳴り響いた。恐らく、蹴り飛ばされたのだろう。
「(一体、何が……。)」
黒い髪が夜ト様に抱きついている。あの後ろ姿は……。
「……の、……ら?」
「ずっと見てたのに全然呼んでくれないから寂しかった。あんな不安定な子なんて捨ちゃえばいいのに。ねぇ、私を使って、夜ト。」
引き剥がさなければと、本能がそう言っているのに体が動かない。体が限界を迎えているらしかった。
「(今の私じゃ、何も出来ない。)」
無理やり立ち上がって、自分の頬を思い切り叩いた。
なりふり構ってはいられない。
必死に駆け出して、夜ト様を抱き抱える。
「すいません。口、閉じていてくださいね。」
踏み切って、高く飛び上がった体は酷く熱かった。
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まチョコ - 上手すぎやろ。喋り方までそっくり。面白いし感動した。 (2021年9月1日 18時) (レス) id: 310d4b66e7 (このIDを非表示/違反報告)
琉那(プロフ) - めっちゃ面白いです (2019年9月30日 21時) (レス) id: 60dcb24f8e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:桜狐 | 作成日時:2019年8月24日 23時