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深海 ページ26

ひよりさんのお父様と一緒に家へ侵入する夜ト様を見送る。流石に、私が中に入って出来ることは無いだろう。

「……雪音くん、私達はもう普通には生きられないのよ。」

か細い声が風にかき消されて、何だか酷く心が傷んだ。じわりと腕にヤスみが広がったけれど、これは私の弱さだから仕方がないと割り切ることにした。

微かに中から聞こえる声は、人に焦がれる私のようで、それよりもずっと楽しそうに弾んでいる。

人の営みを彼は知ってしまった。



夜中になり、小さく夜ト様が息を漏らしたところで私はこっそりとひよりさんの家に忍び込む。あの予知は思ったより早く現実になるかもしれないと、息を飲んだ。


「お前に女は早いから、今は俺だけにしておけ雪音。」

苦しげな夜ト様の声が聞こえて、そっと覗きこむ。

「夜トにはAもあの女の子もいるだろ。俺がいなくてもいいじゃんか。」

遠目には決して分からない夜ト様のその瞳は深海のように深く、驚く程、暖かい。

「(夜ト様は、雪音くんが自分自身で気付けると信じている。)」

やれやれと部屋から出てきた夜ト様が、私の姿を見た途端、倒れこむ。

ぐったりとした、顔色の悪い夜ト様を私はそっと抱き上げて、窓から飛び下りた。

この人は本当に強い人だと、純粋に悲しくなる。
ヤスみは我慢して耐えられる類いの痛みでは無いのに。

「……大丈夫、ですよ。きっとすぐに良くなりますから。」

囁いた言葉に返事はない。変色したうなじにそっと触れればヤスみは私の腕に吸い寄せられるように消えていく。勿論全ては消せないけれど、出来るところまでは。

「……早く貴方が幸せになりますように。」

いつか見た私の居ないあの楽しそうな情景が目蓋の裏に浮かんでは、沈むように消えた。

嘘が上手な→←日差しとアスファルト



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まチョコ - 上手すぎやろ。喋り方までそっくり。面白いし感動した。 (2021年9月1日 18時) (レス) id: 310d4b66e7 (このIDを非表示/違反報告)
琉那(プロフ) - めっちゃ面白いです (2019年9月30日 21時) (レス) id: 60dcb24f8e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:桜狐 | 作成日時:2019年8月24日 23時

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