先触れ ページ14
からん、と氷が溶ける音がした。
場所はファミレス、ひよりさんにだけ水が出されるという異様な空気に夜ト様が声をあげる。
「すいません、あと水三つ。」
三を示した指と、悪びれもなく笑った夜ト様に、店員が虚を突かれたように水を取りにいったのを私はぼんやりと眺めていた。
神器である今の私なら人の視界に映るのか。
「俺はお供え物を残さない主義だ!」
我にかえって、さっと青ざめる。
これだけの食事、ひよりさんだけに負担させるのは心苦しすぎる……。
「あの……少ししかないんですがこれでどうにか……。」
ちまちまとお手伝いをして集めた5円玉を震える指で積む。こんなもので足りるとは到底思えないけれど、少しは足しになるかもしれない。
「えっ、そんな……気にしなくていいですよ!私が全部出しますから!」
「あ、ありがとうございます……!本当に申し訳なさで頭が上がりません……。」
優しい優しいひよりさんのご厚意に対して、満足そうにふんぞり返る夜ト様の頭を軽く叩いて私は溜め息をついた。
この人は本当に油断も隙もない……。
いつだって、我が道を勝手に突き進んでしまうの人なのだから。
「神と神器は一心同体だから、お前の邪な心の波は主である俺に伝わっちまうんだぞ。」
だから、そんな夜ト様が小さく体を強張らせたことに気が付いていても、私は何も言えなかった。
これから雪音君が間違いを犯すと悟っていたとしても。
私はそれをとても必要なことだと思ったのだから。
鳴り響く依頼の電話。
着いた先は見覚えのある神社で、体を落としたひよりさんが降ってくる。
夜ト様は喚いているし、雪音君は恥ずかしそうにしているけれど、もうすっかり私を除く三人は仲良しだ。
私はまたぼんやりと、眺めていた。
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まチョコ - 上手すぎやろ。喋り方までそっくり。面白いし感動した。 (2021年9月1日 18時) (レス) id: 310d4b66e7 (このIDを非表示/違反報告)
琉那(プロフ) - めっちゃ面白いです (2019年9月30日 21時) (レス) id: 60dcb24f8e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:桜狐 | 作成日時:2019年8月24日 23時