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その輪に入れないのは ページ12

夜ト様は、泣いていた。
恐らく、あの雪の名を貰った子の記憶を共有してしまったのだろう。

「(私は、稲荷神様の力で有耶無耶に書き換えてしまったなあ……。)」

悟られてはならないと、ありふれた事故を捏造し思い込ませた。本当は誰からも愛情を与えられず、最期には神にその命を捧げさせられた人生だったと知ったら、夜ト様は、きっと泣いてくれるだろう。

妖を切り裂いた刃はその返り血を浴びて尚美しく、しかし夜ト様の体を蝕んだ。

「夜トさ、」
「触るな。」

ヤスみと呼ぶのだと、神社についた夜ト様はひよりさんに説明をしてあげている。

その横で私はそのヤスみに清らかな水を掛け続けた。この程度で済んで良かったと安心しながら新しい神器である雪音君に一人話しかけてみる。
「こんにちは雪音君、私はA。貴方の先輩で……そう、お姉さんです。」

弟という響きに懐かしさを感じながら、雪音君の刀身に水を掛け続ける私は危ない女だわ、と苦笑し自分の袖を捲る。
ヤスんだ腕は黒く焼けて痛みが引かない。
夜ト様に余計な負担をかけたくないが為に抑え込んだ感情は、決して夜ト様に流れ込まず、私の体の中で暴発したらしい。
妖とはいえ魂が神という私の存在はどこまでも不思議なものだ。

「ありがとうなA。戻れ、雪音。」

クリーム色の髪に朝焼けを流し込んだような瞳。13、14歳くらいなのだろうか。小さな彼は自分の体をしげしげと見つめて、一言。

「寒いんだけど。」

服を要求した。夜ト様が善意でジャージの上を脱ぐ。

「え、そんなの要らない。」
「はあぁ?!俺の一張羅だぞ!?」

思春期真っ盛り、気を使ったひよりさんがくれたマフラーに顔を埋めた雪音君を見てから、私は捨てられたジャージの砂を払って、夜ト様の肩に掛ける。めそめそと泣き真似をしながらジャージのファスナーを閉めた背中を見つめて、一歩、後ろへ下がった。

ああ、私があの時最後に見た予知はこの場面だ。三人が笑い合っているこの光景。
私の居場所は、まだここにあるだろうか。

もう二度と、二人で暮らしていたあの時間は戻らないと知っていて、少しだけ、夢を見る。

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まチョコ - 上手すぎやろ。喋り方までそっくり。面白いし感動した。 (2021年9月1日 18時) (レス) id: 310d4b66e7 (このIDを非表示/違反報告)
琉那(プロフ) - めっちゃ面白いです (2019年9月30日 21時) (レス) id: 60dcb24f8e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:桜狐 | 作成日時:2019年8月24日 23時

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