＊337話「すくいとられる」 ページ21
連れられた場所は、風通しのよい空き教室。
一昨日は研磨くんと別の空き教室にいたな、と思い出す。
あのときは、自分のことで手一杯で負の感情に飲み込まれそうだった。
「A、ここ」
「......」
すぐ隣をポンポンと叩く孝先輩。
そんなに近かったっけ？
前なら感じることのなかった距離感が、今はなんだか目につく。
嫌じゃないのに、落ち着かない。
それなのに、足は自然とそこに向かい座る。
たぶん、いつもの距離。
そのはずなのに......。
「やっぱり」
「っ？！」
一束髪をすくいとられ、肩がはねる。
自分でもオーバーリアクションだと思ったが、
孝先輩は「ごめん。驚かせた」とすぐに謝った。
それにこくこくと頷く。
孝先輩は自分の手に持っていたタオルを
私に被せるとそのままわしゃわしゃと拭いていく。
「夏でもAはすぐ風邪引くんだからちゃんと乾かせよー？」
「きょ、教室で乾かそう......と」
「でも、濡れすぎ」
弾んだ声に、彼が嬉しそうにいるのがわかる。
すぐ背中に感じる僅かな気配。
くすぐったくてぎゅっと体を小さくする。
落ち着かない。でも......嫌じゃない。
ただただ身を縮こませていると、
だいたい水気を拭ったのか孝先輩の手がとまった。
タオルをとられ、手櫛で髪を整えられる。
頭皮を滑る彼の指が首や耳の裏を掠める度、ピクリと動いてしまう。
漏れそうな声に息を潜めていると、
徐に孝先輩が口を開いた。
「A。今日は静かだな」
まるでいつもはうるさいみたいな言い方。
ノスケや夕じゃあるまいし、私はいつも静かです。
そう言い返せばいいのに、何故か言葉がでない。
「......そんなこと、ない」
「そうか......？」
もうあらかた整え終わったのか、
悪戯に髪をすかれたり、撫でたりされる。
いや、それよりも......。
頭に感じる孝先輩の呼吸にさっきよりも近くにいるのがわかる。
わかる......から動けない。
動いちゃいけない。絶対に。
自分が自分でないのがわかるから、何もしてはいけない。
なのに、結局私を動かすのは、
「いっ」
「あ、ごめん」
“孝先輩”。
＊338話「時に体は心よりも正直」→←＊336話「わかりたくない感情」
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星蛍(プロフ) - nasiremonさん» めちゃくちゃ嬉しいコメントをありがとうございます！！ 頑張ります！！ (2020年11月22日 14時) (
レス) id: 1ee6b4a9bd (このIDを非表示/違反報告)
nasiremon(プロフ) - 作品を拝見させていただきありがとうございました！オリキャラたちの人間関係かハイキューキャラとすごい(語彙力)感じに絡んでいてもう、、、本当にすごいです！！！過去篇では涙目になっちゃったし、こう先輩がっっ………！！！更新頑張ってください！ (2020年11月22日 2時) (レス) id: fa0cba8ed9 (このIDを非表示/違反報告)
星蛍(プロフ) - 空良さん» ありがとうございます！最近サボりがちだったので面目ないです(_ _;)今月はガンガンこちらを更新しますよ！ (2016年7月2日 7時) (レス) id: 60a59e3ad2 (このIDを非表示/違反報告)
空良(プロフ) - 続編おめでとうございます！いつも楽しく読ませていただいています♪更新お待ちしています(*´∀`) (2016年7月1日 23時) (レス) id: a94687914e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星蛍 | 作成日時：2016年7月1日 21時
