【HQ】烏に紛れている鷹 part6【烏野】

＊231話「過去編〜災厄のレモネード〜」東雲side ページ9

さえちゃんが辞めてからしばらく立ち、
季節は梅雨に入った。

もう少しで中総体なんだが、
梅雨のせいかAは体調を悪くしていた。


「大丈夫かぁ？」

「無理しないでね」

「……うん」


練習中は気を張っているため、後輩たちには気づかれていないが、
教室ではぐったりと机に突っ伏すことが増えた。

保健室に行って休む日も多く私たちは心配していた。



そんなある日、事件は起きた。

その日は朝から雨でAは今まで以上に具合が悪そうだった。
体育館についたはいいものの顔色が悪い。

咳も止まらず、苦しそうだ……。


「A、今日は帰りな」

「そうですよ。試合も近いんですし」

「私、職員室行って稲荷さん呼んでもらうように頼んでくるよ」


ごほごほと会話にもならないAに、
職員室へ行こうとしたとき、


「それは困りますねぇ」


早乙女檸と新しい顧問の先生、
そして何人かの部員がいた。


「そこ、退いてくれる？」

「なんで？」


にこにこと気味が悪いくらいの笑みを浮かべる早乙女。
そんな奴の態度に叶羽が叫ぶ。


「なんでって、Aが具合悪いからよ。
たぶん、熱も出て」


叶羽がAを心配そうに見つめて体調を説明しているにも関わらず、
いきなり彼女の腕を掴みあげたかと思ったら、パシンッと平手を加えた。

突然のことに唖然とするが、真っ先に我に返ったAが叶羽の元へいったのを見てはっとする。


「何すんだっ」


元来短気な性分がこのとき仇となった。

カッとなって胸ぐらをつかんだ瞬間、
どこからか蹴りが飛んできた。


「結良っ」

「大丈夫ですか？！」


駆け寄ってくる後輩に笑いながら大丈夫だと伝える。


「早乙女、お前……」

「ふんっ。私じゃなくてその凡人を
スタメンにしてるからよ」


忌々しげに吐き出した言葉に茫然とする。


「そんなことで……？」

「そんなこと？ そんなことじゃないわよっ」


つい口に出た言葉に憤怒の形相で噛みつかれ、肩がはねた。

早乙女はAを睨みつけながら言った。


「私の方が断然うまくて才能もある。センスもある。
なのに控えで、挙句こんな凡人がスタメン？
ふざけんじゃないわよっっっ」


ダンッと強く床を踏みつけた音が体育館に響いた。
しーんと静まりかえる館内で、悪魔の一言が嫌でも木霊した。


「試合しましょ。スタメン……いや、部をかけて」

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