もっと変わりたい

6. 宝物が増えた ページ7

ピアスを触る癖がついたのは絶対に拓朗さんのせいだ。




「ピアス…? 」


突然渡された紙袋を開けると、いかにも高級ですよと主張してくる箱に入ったピアスが出てきた。
なぜいきなりピアス?? 頭の中は疑問でいっぱいだ。


今日は、昨日誕生した彼氏こと川上さんとの初デートだった。
まあお互いに仕事があったから、買い物と夕食を食べるだけといういたってシンプルなデートだったけど。恋愛初心者の私にとって、毎秒ドキドキの連続だった。こっ、恋人繋ぎだってしたし、川上さんの好みの服とかも聞けて買えた。

夢じゃないよね? 現実だよね? 明日帰省するから、神様がくれた温情とかでもないよね? と確認してしまうくらい幸せな時間で。
でも、幸せほど過ぎるのは早くて。私の泊まってるゲストハウスに着いてしまった。

もうお別れだと思うと途端に、悲しくて寂しくなる。そんな気持ちから、私は「また明日」と言うのが嫌で手をギュッと川上さんと繋いだまま下を向いてしまった。もうちょっと、もうちょっとだけ一緒に居たいなんて恥ずかしくて言えないけど、身体はずっと雄弁だ。

だから唐突の紙袋に驚いて、入っていたピアスにも驚いて顔を上げてしまった。


「そっ、プレゼント。ちょっと貸して」


自然な流れで持っていたリングとリボンの一対のピアスを取られ、握っていた手も離された。あーなんて残念がる気持ちよりも、混乱が先立つ。


だって、めっちゃ自然な流れで右側の髪を耳に掛けられたから。自分以外の、しかも男の人の指の感触が耳で感じてしまってドキドキする。なんだかいけないことをやってしまってる気分だ。


「女性が右耳だけにピアスつける意味知っとる? 」

「しっ、知りません」


丁寧に丁寧に傷つけないようにと感じる川上さんの指が気になって、視線を右往左往させてしまう。
私の反応かはたまた返答が予想通りだったのか知らないけど、川上さんは近くで柔らかく微笑みながら話し始めた。


「中世では、男性は左にピアスをつけて守る人。女性は右につけて守られる人としとったらしい」

「…川上さんもそういう意味で左だけ? 」


恐る恐る目を合わせると、意外な質問だと言わんばかりに目をぱちくりさせられた。


「俺は別に深い意味はなくて、片耳でも痛かったからもういいかなと思ってただけやから」


私の不安を溶かすみたいに優しく話す川上さんは、「できた」と自信満々に呟き自分にリングのピアスをつけた。


やっぱりもうちょっとだけ一緒に居たい

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