16. ため息は押し殺して ページ17
「えっ! 拓朗さん文化祭来てくださるんですか! えっ、嬉しい…」
ダメ押しのようにもう一度「嬉しい…」と喜び、スマホをさらに耳へと近づけた。拓朗さんの楽しそうな笑い声が耳元で聞こえてきて、恥ずかしさがこみ上げてくる。
やってしまった…。絶対子供っぽいって思われてるよ。
恥ずかしさとジワジワと溢れて出てくる喜びを誤魔化すように、クッションを殴る。毎回拓朗さんとの通話の度にこいつに当たっているせいか、ぺちゃんこになりかけだ。
「11月やんな、たしか…」
「はいっ! 5と6です!! 」
「一応3泊くらいはする予定やから」
「うっ、嬉しすぎて泣きそうなんですけど……どうしよ今から死ねる」
「会えんようになるから、死ぬのはやめて」
「じゃあ生きます! 」
クッションの代わりにクマをギュッと抱きしめて、嬉しさを噛み締めていく。耳元は相変わらず好きな人の幸せそうな笑い声が聞こえてくるから、ギュッと胸が締め付けられた。
最近は本当に気が滅入る事ばかりあって、愛しい愛しい拓朗さんの声を聴くだけでも幸せなのに。久しぶりに会えるという約束が、一等輝いて思える。右耳のピアスの形を確かめるみたいにゆっくりと触って、夢じゃないよね? と確認した。夢だったら夢だったで、悲しくて死ぬ。
「最近変わりない? 」
笑い声の続きのような調子の言葉に理解が遅れた。
最近という単語で思い出してしまうのは、あのにっくき宇宙人で。嬉しいホワホワした気持ちが一気に萎えでしまった。胸にいるクマをより一層ギュッと抱きしめる。大丈夫、大丈夫。落ち着け、大丈夫だから。
「バイトは相変わらず忙しいですよ。…あっ! 今日舞台の当落だったんですが無事当たりました」
気持ち1オクターブ高めを意識して声を出す。嬉しい気持ちを前面に押し出して主張した。
大丈夫、嘘はついてないから。慣れてきてバイト先でたくさんの料理を作らせてもらえるようになったから、忙しいのは本当。2月の推しの舞台に当選したのは本当だし、嬉しかったから。
ただ
「おめでとう。舞台って東京でやるやつ? 」
「はい! ソラマチでされるそうです。…拓朗さんはどうでしたか? 」
「俺は………」
綺麗なキャッチボールができて続いていく会話に安心した。ため息の代わりにクマのふわふわした毛並みを撫でつける。
この幸せな時間の均衡は、私の気持ち次第でどうとでもなってしまうから嫌になる
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 396人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
もえ(プロフ) - あうるさん» コメントありがとうございます。私的にもQKの方達のお話は楽しく書いていたので、そう言って頂けて嬉しいです! 無理ない程度に、執筆も頑張りますね。派手髪王子の出番はもう少しお待ちください! (2020年6月15日 20時) (
レス) id: 0c5b9ef418 (このIDを非表示/違反報告)
あうる(プロフ) - 更新される日を楽しみにしてました！個人的にQKメンバー視点の話が好きだったので、追加されて嬉しかったです！！今後は宇宙人からヨネ科ちゃんを守るためにも派手髪王子(笑)の活躍楽しみにしてます！無理ないペースで更新がんばってください。 (2020年6月15日 16時) (携帯から) (レス) id: d8eef5e7ea (このIDを非表示/違反報告)
もえ(プロフ) - むいかさん» コメントありがとうございます。待っていて下さり、本当に嬉しいです! 少しずつですが、更新頑張っていきます。本当にありがとうございます。励みになります。 (2020年6月14日 17時) (レス) id: 0c5b9ef418 (このIDを非表示/違反報告)
むいか - ご報告して下さりありがとうございます！気長に待っていますのでそんなに気にされなくて大丈夫ですよ(正直少し心配でしたが…)。これからも陰ながら応援させて頂きますね！ (2020年6月14日 16時) (レス) id: f0d64f644a (このIDを非表示/違反報告)
もえ(プロフ) - 七海さん» ありがとうございます。更新頑張りますね! (2020年5月18日 19時) (レス) id: 0c5b9ef418 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もえ | 作成日時：2020年5月16日 15時
