酷く憂鬱な優しさ ページ2
自らを憂鬱と名乗るは、本当は誰よりも優しくて哀しい人ではないだろうか？
一人の、金髪の青年が溜め息を吐いた。その溜め息は如何にも辛そうに聞こえる。
「ねぇ、今どんな気持ち？」
木の根にへたり込む青年に寄り添うように立っている島崎藤村は云った。
「分からない、な・・・」
へたり込む青年、田山花袋は答えた。もう答えるのも辛そうだ。
田山は、先程の潜書で耗弱状態まで敵に追い詰められた。
しかし、田山は自分のよりも酷い状態だった盟友の国木田独歩と、幼い容姿の宮沢賢治を先に補修室に送り込んだ。
敵により傷つけられた精神を何とか隠そうと中庭に植えられていた藤の木の根元に座った。
そんな中、偶然にも島崎と鉢合わせしたのである。
「藤村、俺は・・・書いても良かったのか？俺は自分の文学を、信じていたいんだ。」
零すように、嘆くように、吐き出すように、田山は云った。
島崎はその様子を顔色一つ変えずにじっと見つめていた。本当は数秒だが、とても長く感じられた沈黙を破ったのは、島崎だった。
「花袋、僕って変かな？」
「え？」
あまりにも意外な返答に田山は顔を上げた。
「花袋が、ううん、他の皆も。皆が傷付いているのを見ると・・・すごく変な気分になるんだ。哀しく、なるんだ。」
「藤村・・・」
「僕の抱えてた憂鬱って、こんなんじゃなかったよ。」
島崎は自らの人生を憂鬱と云っていた。だからこそ、こんな事が云えたのだ。
「藤村、それは憂鬱じゃない。優しさだ。お前は、優しい奴だな。」
島崎は意味が分からなかった。優しさとはこれ如何に？憂鬱でなければ優しさなのか？
「僕が、優しい？」
「あぁ、優しいよ。」
薄紫に靡く藤の花。二人の青年、一人は苦しそうに笑みを浮かべ、一人は呆気に取られて無表情。
ただ、無表情の青年は
「有難う」
と、呟いた。
傷が深ければ深いほど、優しくなれる。故に優しさとは酷く憂鬱で哀しいものだ。
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作者名：空白のSecret | 作成日時：2017年12月27日 17時
