臆病ギタリスト (ページ5)

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『で、怪しまれて職質されてたの。』

｢そうみたいですね。｣

『この辺人来ねぇからな』

｢お兄さんみたいな人とか来たら危ないよーって。｣

『やめろよ。』

フフっと零れる笑みが何とも可愛らしくて。
どこの誰かも分からない。
名前も知らない、何歳かも分からない。でもそんな人だからなんでも話せる。知り合いじゃなければ無理に干渉してくることもないから。

｢近くに住んでるんですか?｣

『ん、まぁな。ここいいよな。いい感じに寂しくてさ。』

｢まぁ。寂しいのも悪くないモノです。｣

『いつもここで練習してるんだ。お姉さん、名前なんていうの？』

｢A。毎日ではないですけど、気が向いた時たまに。｣

『Aね、覚えた。もし今度また会えたらもっと聞かせてよ。』

｢いつ来るか分かりませんけど。それでも良ければ。｣

そう言ってじゃあねと言って立ち去る彼。

どう見ても怪しいけれど、一方でどうみても彼は優しいんだな。

未完成ソング。
聞きたいという人がいると
完成させたくなるんだ。

夜風に乗って流れる煙草の煙。
どこか懐かしい匂い。
昔父親の背中からした安心感のある煙草の匂いは私を苦しめた。

知らないお兄さん。
行かないで。もうひとりにしないで。

なんて思ってしまった。