臆病ギタリスト (ページ37)

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先程の会話なんて忘れたかのように、凌さんのレッスンは続いた。

本来4PのOvertureを3人で演奏する為に、足りないキーボードの旋律も各々少しカバーしつつ書かれた譜面に、凌さんのアドバイスで少しのアレンジが加えられ沢山のメモで埋まっていく。

『にしてもすげぇな。これよく譜面書いたな。』

｢ベースの子が書いたんです。コピーバンドやってたらしくて、こういうのは慣れてるみたいで。｣

『才能だな。学生のくせにたまげた。』

会ったこともないのに褒めてもらえる結菜が少し羨ましかった。
嫉妬？いや、それも少し違う。

『少し、休憩すっか』

｢いや、もうちょっと...今これ忘れないうちに...｣

『休憩だ』

珍しく熱心な私の手を止め、少しの休息に入った。
気付けば4時間はみっちりやっていたようで。

タバコに火をつけ、少しすると
凌さんが、いつものオレンジ香るココアを淹れてくれた。

『随分熱中してたな』

｢久しぶりにやる気がでちゃって。｣

『お前さ、なんで誰にも言わなかった事、俺に話した？』

｢...なんでですかね｣

『俺になら、話せそうだった？』

｢んー、まぁそんなとこですかね。｣

『俺も、お前になら話してもいいかな。』

そう言いながらココアを啜る彼は先程まで音楽に触れていた時とは想像もつかないくらいの哀愁に溢れていた。