揺れぬ…ini ページ5
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「Aさんって、ずっと髪長いんすか?」
パソコンとにらめっこしていて顔にかかってきた髪が鬱陶しくなりクリップでで簡単に留めると、斜め前で同じくキーボードを叩いていた乾に話しかけられる。
『入社してすぐは短かったけど、そっからは伸ばしてここ数年はこれくらいの長さかも。』
下ろすと鎖骨をすっぽり覆う長さのこの髪は短いとは言わないだろう。
何で?と問うとなんとなく。と返される。そうですか。
「前はAちゃんポニーテールが多かったよね」
隣で書類チェックをしていた山本くんが会話に加わる。
「確かに、俺が入社した頃のイメージポニーテールでした。」
もうやらないんですか?と乾に言われ、やらないよと反射で返しながら頭の中で別のことを考えてるとパンクしそうになって頭を搔く。
「俺ポニーテール好きなのに」
『奇遇だね、私の好きだった先輩もポニテ好きだったんだわ。』
「あーね」
憧れて、入社した先輩が好きだと言ったから伸ばした髪。ここぞとポニーテールを揺らして先輩に話しかけていたのがもう遠い過去に感じる。
勇気を振り絞って告白するも、即刻却下されても退職しなかった私の根性を誰か褒めて欲しいものだ。
私があの人を想っている時に散々相談したことを思う出したのだろう、山本くんはそんなことあったねーとカラカラ笑う。
なんの事か分かってない様子の乾だけ、しつこくポニーテールにしろと言ってくる。
『私が髪切ったらちょっと静かになる?』
「何で俺に対してそんなに辛辣なんですか!」
返事が喉まで出かかって、ぐっと飲み込んだ。
もう玉砕して何年も経つのにまだ引き摺ってるのを山本くんに悟られたくなかったから。
その派手髪が、心の傷を抉るんです。
乾は乾で可愛いんだけどね。
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作者名:n | 作成日時:2024年2月6日 18時