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Aは話してくれた。結婚相手は優しくて、真面目で、高収入で、高学歴で、家事もきちんと手伝ってくれる人。
それ、俺に勝ち目あるか??
……ないな。
でも、と彼女は話し続けた。
「でも、私ね。千羅くんのこと今も好きだよ」
はっ、と息が漏れた。どういうことやねん、それ。
「私たち、進学先が遠くなって別れちゃったけど。ずっと私は、千羅くんしか見えてなかった」
「ちょお、待って」
ぱっとAの腕を掴んだ。ゆらりと大きくブランコが揺れた。
「ごめん、嫌だったよね。忘れて」
「違う!そうじゃないんよ…!……俺も未だにAのことが好きや」
寒い風が2人の頬を撫でた。口をパクパクさせる彼女にもう一度、告白をした。
「好きなんよ。まだ。ずっと忘れられへんかった」
ブランコを降りて彼女の前に立つ。彼女はうそだ、とこぼした。
「嘘なんかやないよ」
その証拠にAを抱きしめた。背中に細い腕がまわる感覚が伝わる。
当時を思い出す。別れ際のあの瞬間を。進学先が別れて遠距離になることになって、喧嘩したあの日を。それは彼女もそうだったみたいで。
「ねえ、あの時ごめんね」
「こっちこそごめんなあ」
お互い顔を見合せた。
「あのさ、終電までの間、昔を思い出そうよ」
「おん、ええで」
どうせ2人でいられるのが最後なら。これくらい、許して欲しい。
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作者名:なべぶた | 作成日時:2023年2月26日 20時