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「こんなもん、どうすんねん」
やってまいたかったとこまでの仕事を終えて時計を見ると、短針はとっくに2の字を越えていた。集中しすぎてもうてたらしい。キッチンへ行って見慣れた鍋の蓋を取ると、美味そうな雑炊がちょうどいい加減で水分を含んどる。
ヒナは、あれは、俺が電子レンジで出来合いをあっためるんが嫌いなことを知っとるから。あいつは飯時に家を開けるとき、あったかいほうが絶対に美味いもんを作らん。前回はサンドイッチ、その前は冷やし中華。一度昼時に店屋物を注文された時に、その夜俺が「やっぱヒナの飯のほうが美味いなぁ」とこぼしてもうてからヒナは店屋物を避けるのだ。
そろそろレパートリーも尽きてきたっちゅうことかもしれん。余熱でくつくつ火を通す雑炊を時間計算して作ってくなんて考えに驚嘆しつつ、隣に置かれたメモに目を通す。そこにはヒナの字で“冷めとったら火入れて食うて”の文言と、ご丁寧にコンロのつけ方、火の加減、煮込み時間なんかが書かれてあった。いつも昼飯食うてる時間ならまだあったかかったんかもしれへんな。ヒナはそういうとこ律儀やから。そんで、俺が1人やったらその時間にメシちゃんと食うかわからんことも見越してこんなメモ残しとるとこも。俺は書いてある通りにその辺のボタンをいじってみる。赤い光がパタパタ光って、それからなんでか消えていった。
そして、くだんの台詞や。
「こんなもん、どうすんねん」
ヒナが律儀なんはわかっとるし、仕事が丁寧なんも俺はよぉく知っとるよ。これまで俺はヒナに育てられてきたようなもんやし、あいつが面倒見いいんも知っとる。けど、だけどやな、あいつは俺がほんまのほんまに不器用やってことをよう忘れるな。
いつまでたってもうまくいかへん、点いたり消えたりする火の代わりの赤ランプは、今朝から話題のデッキのそれにも見えてくる。俺、ヒナがおらんとコンロも使えへんかったんか。あいつもうちょい俺のことちゃんと教育せぇよ、なんて理不尽な台詞まで飛び出す始末。もうなんもうまくいかん。俺は火ぃつけんのを諦めて、もったりした雑炊をそのまま茶碗によそってリビングへ移動した。
テレビ見よ思たけど、そういや今朝からデッキ動けへんし、1人の飯はつまらなくて、冷めた雑炊は本来のヒナの料理からしたら味気なくて。鍋にあったんが一人前なんはしっとったけど、4分の一も食べんと俺は茶碗をシンクに置いた。腹は全然満たされないがどうせあと3時間もすりゃ夕飯になる。
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ぐりむ(プロフ) - ↓全くコメントに気がつかなくて一年以上経ってしまいました。すみません。一応お返事しておくと、めちゃくちゃダメです。重ね重ねすみません。 (2020年1月4日 1時) (レス) id: 212d40df9c (このIDを非表示/違反報告)
岩辺亮香 - 作品、アレンジしてもいいですか?よければ私が作ったイベントに参加してください! (2018年12月27日 7時) (レス) id: d0c4305158 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぐりむ | 作成日時:2017年5月14日 9時