ベランダとタバコ（紫） (ページ30)

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テーブルの上に置いてあるiQOSを持つのかと思えば、違う引き出しから出てきた紙タバコを手に持って

「行こ」って手を引いてくる

ベランダに並んでライターで火をつける横顔を見ながら

『なんでiQOSじゃないの？』

「あーそれ聞いちゃう？」

『iQOSも吸ってたんだなーって』

「や、元々はiQOSよ？でもAちゃんに紙のタバコもらってから、もっかい戻そっかなって」

「だから俺、Aちゃんと会ってからは紙ばっか吸ってたのね？

でもここんとこ最近会えてなかったじゃん

だからちょっと気分でiQOSに戻してたってか、まあそんな感じよ」

『そうなんだ』

ぼーっと道路を通る車を見ながら私も火をつけようとライターを取り出すと

「貸して、俺がつけたい」

って右手からライターが奪い取られると

「こっち向けって」と体を向かい合わせた

カチャ、と静かなベランダにライターの音が小さく響く

ん、とライターを返却されるとまたふっかは空を見ながらタバコを吸った

『なんか不思議、』

「んー？何が？」

『今までは壁挟んで別々のベランダで吸ってたのに、今は壁がないから。

初めてでしょ、隣で吸うの』

「あー確かに、言われてみればね」と煙を吐き出した

『同じ建物で、しかも隣の部屋なのに見える景色って案外違うんだね』

「俺ん家からの景色どうよ」

『悪くない、かなあ』

「そっか～、なら良かった」

「俺も、Aちゃん家から見える景色見てみたい」

『…今度来る？』

「いーの？俺本当に行っちゃうよ？」

『気が向いたら呼ぶね』

「なーによそれ、いつ呼んでくれんのよ」

ふっかの高めな笑い声が耳をくすぐった

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