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「 …… 無理だよ 」
『 え?』
「 今更無かった事に出来ない 」
いつの間にか服を着ていたAが
驚いたように俺を見た 。
「 …… って言ったらどうする?」
俺は思っていたより 、
どこまでもずるい人間のようだ 。
「 どうするの?」
『 どうするって … 』
その困ったような申し訳なさそうな顔 。
いつからAは俺にそんな顔しか
見せなくなったの?
『 それでも無かった事にしなくちゃ 。』
「 …… 何で 」
『 じゃないと私も雄登も幸せになれないから 』
そうでしょ?って
また寂しそうに微笑むんだ 。
『 ホテル代もきっとタクシー代も出しただろうから 』
「 …… 」
『 ここに置いておくね 、ありがとう 』
財布から1万円を何枚かテーブルに置いて
部屋を後にしようとしたAの
「 待ってよ!」
右手を咄嗟に掴んだ 。
『 …… 雄登 、離して 』
デジャヴだ 。
4年前もこうやってAの右手を掴んだ 。
視界の端でテーブルに置かれた1万円札が
ひらりと床に落ちたのが見えたけど
あの時と同じようにこの手を離したら駄目だから 。
「 じゃあ好きだって言ったら?」
『 どういうこと … 』
「 俺がAのこと好きって言ったら 」
『 …… 』
「 その場合はどうするの?」
強く手を離そうと腕を引いていたAだったけど
スッと力が抜けたようだった 。
『 そんなこと言っても …… 』
俯いて俺を見ようとしないAの声は
少し震えていて流石に怒らせたかと怯みそうになる 。
『 …… 』
「 …… A?」
鼻を啜ったのが聞こえたと思ったら
『 そんなの遅すぎるよ … 』
顔を上げた彼女は涙をすうっと流していたから
思わず掴んでいた力を緩めてしまった
『 …… ッ 』
それに気づいたのか
一瞬で俺の手を振り切って部屋を出て行った 。
「 …… 遅すぎる?」
振り払われた手が行き場を無くし
ボーッとAの残像を見ていた俺は
閉まったドアの音によってやっと気づく 。
… また手を離してしまったのだと 。
..
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めろんぱん(プロフ) - このお話が大好きで完結後も定期的に読みにきます( ; ; )みるるんさんの作品大好きなのでこれからも応援してます! (2020年7月13日 4時) (レス) id: 3589a32c79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みるるん | 作成日時:2019年6月16日 2時