キャンバス (ページ25)

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続き

わ！と驚いているAに顔を寄せて、くちびるが触れ合ってしまいそうなほど至近距離で。

ほとんどゼロに近い距離で目を合わせて「A、」と名前を呼んでやる。
すると彼女は頭を後ろに引き、俯きながら無言でこちらを見上げてきた。

「…」
「A」
「な、なに」
「…ちゅーしちゃうよ」
「だ、」
「だめ？」
「う、うん…」
「前はよかったのに？」
「…まえは、役、だったでしょ」
「俺は本気だった」
「わたしも本気だったもんっ」

きっとAの言う本気は、役に対して本気だった、という意味だろう。
俺の本気とは種類が違う。Aにはわかってもらえそうにもない。

そのまましばらく沈黙が続いていると、顔を寄せたままだったAがもぞもぞと俺から距離を取るように動き、また口を開いた。

「とりあえず、今日はうちにおいでよ」

…なんだ、俺は試されてるのか？
掴んだままのAの手を離し、距離を取って背中を向けた。大きなため息付きだ。深呼吸をして息を整える。

試されてるんだったら乗ってやろうとさえ思った。

後ろを振り返って自分の肩越しにAを見ると、手のひらでぱたぱたと顔を仰ぎながら、やっぱりなんにも考えていなさそうな顔でこっちを見ていて。

さっき握った夜風に当たって冷たくなっていたAの手は、いつの間にか溶けてしまいそうなほど熱くなっていた。

それからは夜の暗闇に助けられながら人目に触れずタクシーに乗り込み、Aの自宅を目指した。

道中、『オオカミに気をつけろ』と、マネージャーが最後に言った言葉が脳裏を過ったのだった。

(大阪シリーズはこれで終了となります)

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