ベクトルの其の先へ【文豪ストレイドッグス】

19 集合 ページ21

『後一歩のところで力及ばず…申し訳ありません』


ポートマフィア特有の黒い外套を羽織り、珍しい白のワンピースを纏った少女が静かに謝罪をする。



「仕方がないよ。準備も何も無しに、しかも太宰君がいたのだろう？それにも関わらずあと一歩まで迫ったんだ。良しとしよう」

『痛み入ります』


人虎捕獲失敗との報告を受けてなお、森は叱りつけることはなかった。
むしろ、たった一人であそこまで迫ったことを褒めるほどである。
ゆえに、その表情も柔らかく暖かい瞳でAを捉えていた。


『太宰には我々の目的を勘づかれてはいますが、明日、必ず人虎を捕らえてみせます。』

「うん。期待しているよ」


頭を下げる彼女に、森はまたもや敬語を使われる姿を見て寂しそうに目を細める。


『では、失礼いたします首領』


最後にそう云い、再び扉の前で頭を下げると入口の両脇にいた構成員が静かに扉を閉めた。


「お疲れ様です。幹部」

『ええ、お疲れ様』


笑顔で返し、階の釦を押した昇降機に乗る。
そして、携帯を取り出すとある人へと電話をかけだした。


『……もしもし？私だけど。夜分で悪いンだけど、今から集まれる？……いや、貴方と樋口ちゃんだけでいい。……ええ、いつもの第五会議室に。じゃ、あとで』


通話終了の文字の下には、「芥川龍之介」と書かれていた。

チンと階を告げる音が鳴り、降りて右に曲がり第五会議室を目指すA。
鍵を手に、次の曲がり角を左に曲がれば見えてきた目的地。

彼女の目には、扉の前に一人の人影が映り込む。
すると、向こうもAに気付いた様で頭を下げる。


「お疲れ様です」

『お疲れ様。夜分に呼び出してごめんね？早くて驚いたよ。待たせちゃったかな？』

「いえ、僕も今しがた着いた所ですのでお気になさらず」


そう云うと、コホッと咳を零す男。
先程電話をしていた相手「芥川龍之介」である。


『じゃあ、樋口ちゃんが来るまで中で待ってようか』

「承知」


彼女が中に入り、電気をつけると円卓式に並ぶ机と椅子が目に飛び込む。
ここ第五会議室は、一番狭い会議室だ。
数名での作戦会議では最も使いやすい。


『そういえば、首領から人虎の件は伝わってるよね？』

「然り。岸幹部と協力し、成すようにと」

『なら良し』

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