過去 ページ27
何度も何度も泣いた
裏方なのを良いことに、他のコックを見て辛くなったら、裏で泣いていた
…もしかしたら、やろうと思えば、みんなの目を盗んで料理が出来たかもしれない
でも、怪我ひとつで心配してくれる人がいるのを理解した私にはできなかった
ましてや、ここバラティエは戦うコックたちの集まりだ
そしてもうひとつ兄さんに強く抵抗できない理由があった
バラティエにひとりだけ、私のことを本気で怒ってくれた人がいた
怪我をしたとき、私を見つけたのはその人だった
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深夜1時くらい
私はひとり調理場で練習していた
いたっ…
手元が少しだけ狂ってしまって、指を切る
予想より深い傷でなかなか血は止まらない
包丁や消毒液などでなんとか処置だけはする
血は…待てば止まる気がする
もう練習は止めようと、もったいないけれど材料の少しの余りを端に寄せて捨てる
?「…何やってるんだ。」
やばい!見つかった!
怒られる…!
近づいてくる足音に怯える
?「…!怪我してるじゃねぇか!」
バレた、バレた、バレた…
このことがゼフおじさんにバレたときのことを想像して、もう私の目には涙がたまっている
?「おい!反応しろよ!
…お前、ゼフさんの親戚の子ってやつだろ。
どうしてこんな夜中に、こんなとこにいるんだ。」
何を言ってもダメだと思うと顔も上げられない
涙が目から溢れて落ちてくる
?「あと、お前…材料を捨てただろ。
俺はいついかなるときも女の子は大切にするが、
料理となりゃ別だ。
なぜ捨てた。」
…答えられない。
もったいないことをしたのは事実だ…
?「怪我は…処置してるみたいだな…
泣いている女の子をいじめたいわけじゃねぇが、料理人としての注意だ、聞け。
材料を捨てたことともうひとつ、お前はやっちゃいけねぇことをやった。
怪我をしたことだ。
怪我をするってことは、その料理の正しいやり方を知らねぇってことだ。
1番安全で1番無駄のない動きが正しいやり方…
つまり、お前は習ってねぇ料理の練習してたんだろ、この調理場で。」
男の言葉は正しい
私はもう前も見えないくらいに涙を流し、
知らない人の前でみっともなく嗚咽していた
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作者名:和陽 | 作成日時:2019年9月13日 17時