檸檬色の君【アンナチュラル】 (ページ17)

今日:2 hit、昨日:3 hit、合計:30,437 hit

５ページ17

ASide

「もー無理！」

ガシャン、と大きな音を立てて器具を置いた東海林さん。

２班同時に進めて現在６体目。

どれも似たようなご遺体だった。

縛られた手足に焼けただれた皮膚。

「もう何時間やってる？」

「１２時間はやってますね」

三澄さんの問に時計を見る久部くん。

もうそんなにも経っていたのか。

「今日はもうやめよう。脳みそ回んなくなってきた。それに絶対これ残業だから！１１過ぎてるからね？電車なくなっちゃうわー」

つらつらと文句を並べる東海林さんは、さっさと手袋を外し始めた。

他のみんなもそれに続く。

私と中堂さんを除いて。

「あれ、Aちゃんと中堂さん残るんですか？」

『もう一体だけやっていきます』

「上がってもいいぞ」

『いえ、やりたいので帰りません』

「物好きだな」

『物好きじゃなきゃこの仕事やりません』

それを聞いてにんまりと笑った東海林さん。

「それじぁ、お先でーす」

彼女は坂本さんを引きずるようにしてその場を後にした。

なんだか坂本さん可哀そう。

それから私達は無言でご遺体の袋を開けた。

『うわ………』

私は思わず顔を背ける。

ほとんどつながっていない上半身と下半身。

内蔵はぐちゃぐちゃ、というよりもほとんど無いに等しい。

中堂さんも顔をしかめている。

ここまで酷いご遺体は久しぶりだった。

『あれ……………………中堂さん』

「なんだ？」

『このご遺体だけ縛られた跡がありません』

それは男性のご遺体だった。

まだ若く、二十代だろう。

焼けただれてよくわからないから、もしかしたら１０代かもしれない。

彼だけ自由の身だったのだろうか？

「…………………おい」

中堂さんはピンセットを手に取り、裂けた上半身の皮膚に埋まった何かを取り出した。

すす汚れたプラスチックのようなものだ。

そしてもう一つ。

これは銅線か何かだろうか。

拘束されていない手足。

千切れそうな胴体。

体内に埋まったプラスチックと銅線。

それは簡単に予測でき、同時に最悪の予測でもあった。

『これは、自爆だ』