【アルスマグナ】 Train 2【泉奏】 (ページ3)

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story 51 ページ3

泉「……では」

「じゃあね」

泉くんは俯きながら手を振り、帰っていった。

なんだろう、泉くんがいなくなったあとの部屋は少し寂しい感じがした。

あの本、読んだら何か感想聞かせてくれるかな。

私はその時のことを考えて少し胸を弾ませた。

昨日から今までに起きたことを思い出す。

泉くんに過去を話したり、泉くんが突然部屋に来たり、泉くんの涙を見たり、泉くんを慰めるために抱いたり、朝食を作ってあげたり……

初めてのことだらけだった。

自分の過去を人に話したのは初めてで、こんなにも落ち着けるんだと知った。

気分が軽くなった。

なんだか一晩で泉くんに近づけた気がした。

なんで嬉しいなんて思うんだろう。

なんだか体験したことのない不思議な感覚に襲われたので、私は気分転換にと本屋へ出かけることにした。

最近はだいぶこの街にも慣れてきた。駅周辺で彷徨うこともなくなったし、駅からクロノス学園までの近道だって覚えた。

……まぁ、そんなに出かけることはないんだけど。

駅から徒歩5分くらいの場所にある本屋に入った。

私は、漫画は全くと言っていいほど読まない。読むのは小説かたまに趣味に関係のある雑誌だ。

今日はとりあえず小説数冊。

同じ本棚から気になった本を手に取り、候補を決めていく。

他に面白そうな本はないかな……と店内をふらついていると、少しガッチリした人にぶつかってしまった。

「あ、すみません……」

私はその人が先へ進めるように端に避けた。

その人はなかなか歩き出さない。

私はその人の表情を伺おうと、顔を上げた。

「……泉くん？」

私がぶつかったのは、さっきまで私の部屋にいた泉くんだった。

泉「ぶつかったこと、気にしてないですよ。Aさんでしたし。Aさんの方は、お怪我はありませんでしたか？」

「……あ、なかった……よ……」

泉くんが微笑みながら問いかけてくれたので、なんだか直視できなくなってしまった。

俯くと、泉くんが私服だということに気がついた。

……さっきまで制服だったのに。

あれから寮に帰って着替えてここまで来たって考えると、泉くんの行動力は素晴らしいと思う。

私服、おしゃれだな。

薄めの襟付きシャツに、少し濃いベージュのカーゴパンツ。明るいブラウンの短いブーツ。そしていつもの手袋。もちろん、シャツのボタンは上まで閉めてある。シャツインはしていない。

なんだか余計に泉くんのことを見れなくなってしまった。