四十九話 ページ9
朝。
何事も無かったかのように大地は京と京の妹を起こしに襖を開けた。
京はその姿に怯えを潜めながら笑顔で挨拶をする。
すやすやと静かに眠る、京の妹を、京は無意識に抱き抱えた。
大地が二人の寝る布団を跨いで、黄ばんだ白いカーテンを勢い良く開ける。
いつもはその眩しい光を浴びるのが好きだった京も、今日はどうしても快く思えなかった。
「おはよう、京。………しほ」
ほっとしたと言ったような、それとも少し悲しいような、そんな表情で二人の名前を呼ぶ大地。
「……ねぇ、お父さん」
小さな、小動物のような声で父を呼ぶ京に、大地は視線を合わせることで応える。
「お母さんは…?」
己の妻、息子の母、娘の母の殺人犯である大地にそれを聞くのは酷…と言うより禁忌にも近いそれだったが、京はそれを聞いた。
「………昨日、いなくなった」
「どこに?」
「……どこか、遠いところだよ」
それが、県外だとか外国だとか、その次元の話ではないと言うことは、目撃した京は分かっていた。
違う癖に。
京は、口には決して出さなかったが、心の中でそう強く唱えた。
今朝から、母親の欠損によって日常が破綻しかけの危ないものになった。
京には不思議な実感と、ふわふわとしたような感覚に囚われ、母親の仇だとか、妹を守ろうと言う固い決意だとか、そういうものは全くと言うほど抱かなかった。
いや、妹は今まで以上にしっかりと面倒を見よう、とは思ったかもしれない。
8人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ