六十話 ページ19
「ねぇ、普通一日寝てれば治るよね？」
あれから熱に魘されつつも一日寝ていたが、治らなかった。
「今の夏風邪はきっと昔よりも酷いんだよ。なんでかかったんだ。私に移ったらどうするつもりなの、私受験生なんだけど？」
なんか捲し立てられた。
病人なのに扱いがいつもと変わらないのは何故だろう。
もっと労ってくれて良いのに。
まあそんなことをここで言っても妹は突っぱねるだけだろうし、何も言わない。
そもそも気力がない。
妹がそのまま登校してがらんどうになった家で数時間だらだらと過ごすのにも飽き、さてどうしようかと思い悩んでいた時、玄関が勝手に開く音がした。
「んなっ…？！」
熱で怠い体も跳ね起きたが、それは杞憂だったと言えよう。
「やぁ〜久し振りだね、きょー！君の可愛い妹から連絡来たから看病に来たよー！」
「…もう、驚かせないでよ…せいにぃ」
最近の話題に出てきたのでつい久し振りに思えなかったのだが、そういえば最後に会ったのは例の事件以来だったような気がする。
「ごめんごめん、うどん作るから許して！ね？」
「…別にそんな必死にならなくても」
そんなことを言いながらるんるん気分で台所へ駆けていく。
すると、今度はインターホンが鳴った。
インターホンのカメラを見たせいにぃが言うには、どうやら女子のようだ。
妹の友達だろうか？
せいにぃがコンロの火を律儀に一旦止め、玄関へ歩いていく。
「お邪魔します…えっと、大地君が風邪だと伺ったのでお見舞いに来たんですけど…」
「は？！」
怒乃さんだった。
いかん……大きな声を出してしまった。
同級生の女子を家に招き入れるだなんて玄関ですら僕にとっては有り得なかったのに…こんな形であっさりと達成されてしまった。
しかも風邪である……せめて元気でありたかった。
「だっ、大地君？元気……じゃないから休んでるんだもんね。ごめん。あの、今日の授業内容纏めたプリント、先生作ってくれたらしいから。玄関に置いとくよ？」
玄関から近いとも遠いとも言えない距離にある僕の部屋まで、その声は良く通った。
その後は、せいにぃと談笑しているような声が微かに聞こえた。
「あ、私そろそろ帰ります。大地君！お大事にね！」
「あー、じゃあ俺が送るよ、きょ…大地の代わりにね。行ってくるけど、くれぐれも安静にしてなよー！」
そんな声が最後に聞こえてきたと思えば、玄関が閉まる音。
僕はまた一人、がらんどうな家で暫く過ごすことになったようだ。
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