五十七話 ページ16
犯人は突如、僕の問いを踏みにじるように笑った。
鼻で笑った。
笑いたいのは此方も同じだと言うのにこの男は…いや…大人は、か。
「その通りだよ。全くもってその通りだよ、京君」
今までと同じような笑みを貼り付けながら言う。
「まあ、そんなことはもうどーでも良いんでしょ〜。ほら、しほちゃんは解放してあげるからさ…早くしないと、神崎さん、死んじゃうでしょー?」
その原因が主にそれを喋る貴方だろうが、とは言えなかった。
「………」
僕は黙って、最後に犯人の顔をまじまじと見た。
「やだなぁ、そんなに睨まないでよ、怖いなぁ」
等と、本人は抜かしていたが。
___その後は、警察や救急車を呼んだりして、一連の事件は報道者関連に情報が行き届く前に収束した。
1週間近く少女が誘拐されていても、まあ被害届を提出していなかったのだから、そりゃそうだろう。
神崎さんは救急車に乗せられ、津露総合病院へと…またあの病院の厄介になるのか。
乗せられる時点で、恐らく死ぬ恐れは無いだろう、とのことで、柄にもなく深く安堵した。
………ああ、そういえば、あの犯人はパトカーに乗せられる前に、耳を疑うようなことを言っていた。
「京君の本名は鶴霜京で合っているけれど、京君の妹ちゃんは、鶴霜しほ…じゃあ無いんだよ、知ってた?」
しほじゃ、ない。
「僕は知らないけどね、本当の本名は……京君は、知っている筈なんだけどねぇ」
犯人は、わざとらしく笑った。
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