四十二話 【想起編】 ページ2
「さて、怒乃さん。話をしましょうか」
開口一番、僕は単刀直入に怒乃さんと約束した、交換条件である『何でもする』に関するお願いをすることにした。
僕が変に敬語になったせいなのか、怒乃さんは一瞬身構えたが、すぐに上げた肩を落としてこちらを見た。
「驚かせるね………で、どんなお願いなの?」
夕暮れ時特有のぬるい風に、その長い髪の毛をなびかせる怒乃さん。
そんな髪の毛に隠れていたからよく見えなかったし、夕焼けが眩しく辺りを照らしていただけなのだろうが、怒乃さんの顔は赤らんでいた。
そんな姿に、刹那見とれていたので、質問に即答が出来なかった。
「あぁ………確認なんだけどさ。怒乃さんのお父さんって」
「おっ、おおおお父さん?!お父さんがど、どうかしたのっ?」
何故かあたふたする怒乃さんに疑問を抱きながら僕は質問を続ける。
「警察官だったよね?」
つまり。
警察を「連れてきてはいけない」のなら、「警察が直々に来た」とすればいいだけ。
しかも「来いと言われた本人が実は警察官だった」という最高のオチ付きで。
怒乃さんのお父さんに頼んで、妹を助ける為の日にだけでいいから、警察官にさせてくれ、と。
滅茶苦茶な無理難題なのは分かっているが、僕はそれでも、なるべく出来れば、そんなの建前で本心ではどうしてもと思っていたりするのだが…。
「僕、1日だけ警察官になりたいんだ」
「ふぇ………?あ、えっと…え?なれるの?」
すっとんきょうな声を上げてきょとんとした顔で質問されると、まるでこちらが完全に実現不可能な夢でも語っているように感じてしまう。
「なれるかは、これから会って確かめるんだ。これが、僕のお願い。お父さんに会わせて」
「…………そ、その言い方だと、まるで…」
「まるで?」
「ううん、何でもない」
怒乃さんは、にへらと笑いながら柔らかい声でそう言った。
「全然いいよ。お安い御用だよ。いつ会いたいの?」
「今日含めて5日以内にお願いできる?」
猶予はあと六日間だ。
それまでに、僕が警察官になれるようにしなくては。
想起編
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