マイ探偵

十一話 ページ16

「あぁ…」

そんな治美さんの声が聞こえてきたのは、かなり時間が経ってからだったと思う。

あんなに暑かった(だけでなく、ムシムシしていた)のに、涼しく(暑いのに変わりないが)なっている。

ん？サイレン？何故？

しかし、感覚が戻らない。

瞼を開ける事も出来ない。

とりあえず、また意識が飛びそうなので寝ることにする。

じゃ、おやすみなさーい。









次に意識が戻ってきて、瞼を開けると病室だった。

ピッ…ピッ…と、規則的な音だけが部屋に響く。

体を起こそうとするが、麻酔の影響なのか、起きることが出来なかった。

首を動かしてみると、僕の左側に梨の皮を剥いている神崎さんが居た。

「お、目覚ましたか。心配したんだぞ？」

「心配かけてすみません」

「兎に角、無事で良かったよ。ナースさん呼んでくる」

と言うなり、神崎さんは病室から出ていった。

八等分された梨を見つめる。

手が上手く動かせない。

目の前にある梨を食べられない。

こういうのをもどかしいって言うのか。

妹が、病室に来た。

「ああ、兄、目覚めてる」

「え？なんで残念な顔をすんの？」

「やふこ」

「いや、とぼけ方可笑しい絶対。」

「兄、見事にフラグ回収したね」

「うん…フラグ回避って不可能なの…？」

「さあ」

「ああ、治美さんどうなった？僕は何故ここにいる？梨食べたい」

「治美さんは自首したよ。治美さんが救急車を呼んでくれた。梨くらい自分で取れ」

「成る程。あと、僕は麻酔の影響で体が動かせないんだ」

「体がそんななら、梨をかじることもできないんじゃ…」

「う」

「梨美味しい」

「ずるい…」

「ふっ」

勝ち誇った笑みを浮かべる妹。

「うざ…」

「兄、鏡見てみる？」

「何だよ急に」

「自分の顔がどうなってるか見たいでしょ？ほれ」

僕の頭は、包帯で髪の毛が殆ど隠れてしまっている。

目の下の隈も全然取れてない。

結構寝たと思ってた。

「寝た方が良いって言いたい？」

「あん？」

口が悪くなってる。

「眠くなってきた。おやs(寝るなよ」

「神崎さん？」

「ナースさん呼んできた」

「ナースの荻 綴璃です。読み方は、てき つづりです」

「ども」

「体調どう？」

「良いです」

「そう。良かった」

問答は続いたが、僕も綴璃さんも早口だったから時間は掛からなかった。

じゃ、おやすみなさーい。

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