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結局彼は三限の時間の途中で映画を返却して、どこかに行ってしまった。声をかけられるかも、と身構えたけれど一度こちらをちらりと見た後、すぐに背中を向けたようだ。
『……手慣れてる人からしたら、取るに足らないことか』
相も変わらずスローペースで進んでいく映画は眠気を誘う。四限の講義、寝ちゃいそうだな。と重たくなってきた目蓋を擦り、キリの良いところで返却した。
次の講義は学部も学年も関係なく受講出来るマンモス授業なので、早めに教室に入らないと席を確保することが出来ないため早足で教室に向かう。
既に教室の前では生徒が多く立ち並び、授業が終わって生徒の入れ替わりが起こるのを待っている。
先に到着していた友人を見つけ、他愛のない話に花を咲かせていると、チャイムが鳴り響いて中から雪崩のように生徒達が出てきた。
運良く後ろ側の席を確保することが出来たのでペンケースとレジュメを用意する。他学部の生徒と関わる授業は少ないので、学部によって生徒の毛色が違うのが見て取れて面白い。……ひとつ空いて隣の席の人達、賑やかだなぁ。何学部なんだろう。
授業開始5分前には席が殆ど埋まってしまい、遅れて入ってきた人達は人の合間をすり抜けて、荷物を置くためやパーソナルスペースの確保のために空けておいた空白の席に入るしかない。遅れて来た人たちは必死に空いている席を探しているようだ。
「ねえA、このストーリー見て」
『え、なに？』
「この前の飲み会やばかったんだよ、ほら」
「────シャオロン！こっち！」
どこかで聞き覚えのある名前に、友人とは反対側の席を向く。ひとつ空いた隣の席に座る眼鏡の男の人が遅れてきた人に声をかけている。呼ばれた人の方をちらりと見ると、
「………あ、」
『………あ、』
また、あの人だった。
偶然にしては、余りにも出来すぎている気がする。教授が壇上に上がったところで急いで席の間を割って入ってきた。……やっぱり、隣座るよね。
「ここ空いとうよ」
「え、あぁ、サンキュ。……すんません、隣いいすか」
『ど、どうぞ』
「ども」
意外と教室の席は一つ一つの距離が近いため、座った時に柔軟剤と少し煙草の匂いがほんの少し鼻を掠めた。その瞬間、大きく胸が高鳴ったように感じた。
他にも教授から配られたレジュメを回す時にほんの少し指先が触れたり、向こうが姿勢を変える時に服だけが触れたり、彼の挙動ひとつひとつが気になってしまう。どうしちゃったんだろう、私。
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