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あの日の飲み会から二日。なにひとつ変わることなく、強いて言うならばあの日の私の飲みっぷりを先輩方に気に入られたくらいで、特に変化も無い。
昨日は酷い二日酔いのせいでまともに動くことが出来ず、講義を休んでしまった。友人に1枚多くレジュメを取ってもらう約束は、購買に売っているアイスひとつで手を打つことが出来た。
二限が終わりお昼ご飯を食べ、三限は空きコマ。いつも空きコマの時間はメディア情報センターに入って、ずらりと立ち並ぶ映画を選んで視聴することが習慣化している。
この前途中までしか観れなかった映画があったな、と探すも運悪く貸出中だったため他のを探す。時間も無いしこれでいいか、と適当に手に取って手続きを済ます。機械によって割り振られたプレーヤーの置いてある個席に向かうと、隣に座っている男性の横顔にどこか面影を覚える。
思わず立ち止まって記憶を反芻させていると、私の視線に気付いたのか男性が振り向いた。
「……あ、」
『……あ、』
あの時の、キスをしてしまった人だった。
目が合ったまま、特に会話が紡がれることも無い。同じ大学の人だったんだ、全然見たこと無かった。
そろりと視線を揺らして見た彼のモニターに映し出されていたのは、私が借りようとしていたあの映画だった。
彼が私の視線を追って振り向いた刹那、はっとして自分の席に向かう。ああ、逃げてばかりな気がする。
隣の席の彼は私に視線を送って何か言いたげにしているが、気付かない振りをして急いでヘッドセットを接続して遮断した。
何を言われるか分からなくて怖かった。どう思われたんだろう、もしかしたら怒られるかもしれない。男性慣れしていない悪い癖がどんどん心拍を早めていく。
彼は私に声をかけることはせず、またモニターに向き直った。衝立によって遮られて見えない横顔が、どんな表情をしているのか気になってしまう。
『……私の意気地無し』
アコースティックギターの音がヘッドセットから聴こえてくる。流れ出した1960年代のアメリカが舞台の映画は、そこで産まれた訳でも無ければその時代を生きた訳でもないのに、どこか懐かしさと切なさを感じる。
映画みたいに、何でもすぐに上手く行けばいいのに。私がこのヒロインだったら、今だって彼のヘッドセットを奪い取って生意気にもう一度キスくらいしてやるのに。
……そんな勇気なんて、無いくせに。
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