【d!】袖すりあうも他生の縁【企画】 (ページ33)

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Aさんがうちに来て一年半が過ぎた頃、平穏だと思ってた日々に終わりを告げようとしていた。

いや、元々日常と非日常は紙一重だ。とくに、この世界は。

俺が大学から帰ると屋敷は騒然としていた。
組員たちが部屋の入り口にわらわらと群がっている。

部屋の中から聞こえる男の怒鳴り声にただ事じゃないとわかった俺は慌てて人垣を分けその前に出る。

そこにはうちの親父と如何にもな服装をした男三人とその連中の横に立たせられたAさんがいた。

「そんじゃあ、こいつの親父の作った借金の肩代わりとして連れてくからな」

「…好きにしろ」

『……』

ヤクザの男の言葉に親父は表情を崩さず、静かに言葉を落とす。

そしてAさんも無表情のまま前だけを見据えている。

(そのまま連れてかれる気かよ…)

なんの感情も読み取れない、お面を被ったようなAさんに無性に苛立ちを覚える。

(あのキスはなんやったんや…)

気づけば俺は彼女の手を取っていた。

「…あんたはそれでいいんすか？」

驚いてこちらを振り向くAさん。長いまつげが少し震える。

『いいんです』

「売られるんすよ？一生借金背負って生きてくんすか？」

また彼女はうちに来た時のように、能面のように微笑む。

俺に彼女を変えられる力は無いかもしれない。
でも、変えたくなった。変えなきゃいけないと思った。

愛した女の人生を少しでも救いたい。そう思った。

「…せやったら俺が買う」

俺の言葉に親父の顔色が変わる。