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「一緒に逃げよう！ 俺が必ず守るからッ……！」
「だめよトントン。これが運命なの。間に合わないわ」
怒声と空気が焼ける音、木が燃える匂いがする。
人間はすぐそこまで来ていて、今ならまだ逃げられるかもしれないのに、彼女は動かなかった。
どうして。なんで。俺はアンタに生きていて欲しいのに。
Aはそのトントンの表情を見て、うっすらと目を細めた。
微笑んで、ただ静かに彼を見つめて、目の前の我が子が愛おしくてたまらなかった。
(たった六年だけれど、私は確かに幸せだった)
(可愛い可愛い我が子が、愛おしくてたまらない。
ずっと一緒にいたかったけれど、もうそれも叶わない)
「トントン」
「なんや」
「人間を恨んではだめ。あなたは、自分と同じ時を寄り添って生きてくれる人と結ばれなさい」
(この子だけは不幸になんかさせないわ)
「何言うとるん！ 俺はアンタ以外の奴となんて――！」
「可愛い子。大好きよ」
「A――」
――ドンッ！！
「いたぞ！」
トントンがAの魔法によって眠ってしまったとき、ちょうど人間が二人の住む家の扉を蹴り飛ばして入ってきた。
それを見たAがトントンの頭を最後に優しくなでると、彼らに叫ぶように言う。
「この子はただの人間！ ずっと私に飼われていた哀れな子よ。丁重に扱いなさい！」
Aが大人しく人間に捕まって連れて行かれる様子に、意識を必死に留めようとしていたトントンは、まどろんだ意識の中で今までの二人の思い出が薄く消えかかっていくのを感じていた。
それが嫌で嫌で、トントンは眠るまいと抗うが、ポンコツ魔女の眠らせる魔法は成功していたらしい。
人間が自分に大丈夫か！ と問いかけてくるのも無視して、トントンは最後まで眠気と消える思い出に抵抗した。ようやく口にできた言葉は一言。
「……おいていかないでッ……」
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