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｢勘違いしているよ、君は。私しかいない、じゃない。私しか、知らないんだ｣
｢……A、｣
｢町へ出てもっと沢山の人と触れ合いなさい。そうすればきっと、ゾムを愛してくれる人に巡り会えるはずだから｣
そっとゾムの手を取り、優しく両手で包み込む。触れ合う肌の感触を、体温を、温かな愛を、君は私のものしか知らないだろう。こんな狭い世界に、私と共に閉じこもっている必要はない。ゾムの優しさや、柔らかな微笑みはきっと、沢山の人の心を惹きつけるはずだ。その背中を押しだしてやるのも、友達である私の役目である。
｢……ちゃうよ。Aは分かってへん｣
｢違う？｣
｢Aの中の俺は、昔の小さな俺からちっとも成長してへんのやな。もう立派な大人やで、俺。自分の気持ちくらいちゃんと理解できる｣
｢……だからそれは、｣
｢A以外は要らん。せやから、他なんて知らんでええ。俺はほんまにAが好きで、いや、愛しとる。気にしとるのは歳の差か？人の目か？ええやん別に。どうせここには俺と、Aしかおらんのやから｣
｢っ、そんな簡単に、言わないでよ｣
まだまだ未来のある彼の進む道を、私なんかが塞いでしまっていい訳がない。それに、私ははぐれ者の魔法使いだ。そんな人間に固執する理由がどこにあるというのか。
それだけではない。もしゾムがいつの日か、広い世界を知ってしまったら。その時も彼は、私に同じことを言えるんだろうか。そんな日が来てしまったらと考えると、私の胸は苦しさでいっぱいになってしまう。だからこそ、自分のためにもここで留まっておかねばならないのだ。
｢歳の差なんてしゃあないやん。考える必要もない。自分が魔法使いで、周りから白い目を向けられてるからとか思っとるんなら今すぐやめや。十年以上も一緒におんねんで？今更やろ｣
｢……もう寝なさい、ゾム｣
｢……そろそろ分かってや。自分が愛されとるって分かってるのに拒絶され続けるのは、結構寂しいもんやで｣
そんな私の心内を見透かしたような言葉を残し、ゾムは背中を向けて縮こまった。
ああ、やはりこれだけ傍にいればバレてしまうものか。彼のために、自分のためにとひた隠す気持ちは、永遠に自分だけが知るものだとばかり思っていたのに。
応えてあげられなくて、ごめんよ。私は臆病なんだ。
そっと大きな背中に額をあて、音にはせずに呟いた。
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