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『今日はありがとう。楽しかった』
「こちらこそありがとうございました」
車から降りて別れの挨拶をする。
帰りの車内は互いに何も話さず、オセフンはひたすら前を見て、私はひたすら外の景色を見ていた。
高速を走っているせいで景色という景色を見れてないけど。
だから、眺めるのを諦めてちらっと横を見た。
彼の綺麗な横顔が照らされたり、暗くなったり。
ハンドルを握る手は男らしく角ばっていて細長い。
あー……手繋いでたの思い出してきた。
恥ずかしいというか…こう…心臓がきゅってなる感じ。
耳がじんわり熱くなるのが分かって、バレないようにパタパタと仰いだ。
はじめは本当に気味が悪くて好きじゃなかったけど、最近では私の中でかなり大きな存在になってきているのが分かる。
彼は大学生で、学校でどんな風に過ごしているかなんて私には全く分からない。まあ私が在学してた時も分からなかったけど。このビジュアルだし、会社に来た時もイケメンって騒がれてたから絶対大学でも女の子に言い寄られてるはず。「セフン先輩〜」って可愛くて若い子たちにチヤホヤされてるんだ。それで鼻の下伸ばしてるんだ。うわー…なんか嫌だ。
「何が嫌なんですか？」
『えっ？』
「あれ、なんか言ってましたよね。嫌だって」
…うそ、声漏れてた？！
「僕も嫌です。ヌナと離れるなんて」
『あ、いや……そうじゃなくてね』
「えー違うんですかー」
何が嫌だったのか教えて下さいと迫る彼の頬をむにゅっと掴んでみる。意外ともちもちしてるんだね。こんなこと出来るの私くらいでしょ。他の子しないでしょ。
「なにふるんでふか！きょーぼー！」
『やってみたくなっただけー』
私はここで気付いた。気付いてしまった。
…これ、マウント？
私、知らない誰かに対抗心燃やしてるの？
手を離して彼の顔を見る。
こういうのは私だけでいい、って一瞬だけでも思った自分がいた。
『はぁ……』
「今度は人の顔を見てため息ですか」
『悩み事が増えたの』
「僕のことで悩んでるんだったら大歓迎ですよ」
うん。
あんたのことで！
悩んでる！
これ以上オセフンのこと見てたらいろいろ考えてしまって気が狂いそうだ。
明日の仕事を理由に彼を無理やり帰した。
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作者名：mi | 作成日時：2020年1月5日 23時
