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【中編】その赤は激情か 中 ページ7

「……武雄さん。今回の結末、これで良かったと思うか」
「――おや、珍しい事を仰る。十分円満に着地したもんだろう」

つい、頼る。
迷いを見せるのは主を務める身として決してならないとは思う、がしかし口が動く。
頭でまとまらない内にそのまま言葉にしてしまう感覚。確かに滅多にないことだ、と自覚する。
どうも乱心しているようだった。

「だが……。どうも私の行いは、死人を侮辱しているようにも思えるんだ。
確かに死人というものは、蘇ることもなければ、何か物言うこともない。
自分では何も出来ない存在だ。
そんな哀れな存在を、私は隅々まで身勝手に役立てる。
――秘密を暴き、人生を覗き、屍体すらも情報源としてまじまじ見つめる。
生者のためになるなら悪人に仕立て上げることもあるくらいだ。
……これの、何処が、詐欺師と違う。幸せを祈っていれば何をしたっていいのか?
今回の……今回の屍体を見ていると、そういう気持ちに……なってしまって」

言いながら知らず、顔を片手で覆ってしまった。
瞼の裏で焔の光がちらついて、硬く瞑っても眩しいばかりだ。
焦げ臭い木の匂いが鼻をつき、次いで生肉の焼ける匂いになる。
不快さに眉間を寄せていると、そんな幻想から私を引き戻すように、
山口助手の些か乾いた手が肩に乗った。

「……答えは、唯今ご自分で仰っただろう。
屍体は蘇らない。なれば未来ある生者の為に使うというのが、
探偵殿の気に入っている“理”というものではないのかね?」
「しか、し――」
「今回のは火絡みの事件だったから、多少なり憂鬱な気分になるのも致し方ない。
だが普段の君であれば「己は詐欺師ではないか」など口走らない筈だ。
……それに、悪く用いるのでないなら死者も許してくれるというものだろう」

ついと細める瞳にはセピア色の景色が映っているように思われた。
私は彼の前で人の生死についてなどという、
己の領分を遠く超えた話をしてしまったことを僅かに悔いる。
死を利用することの是非については彼の方が遥かに造詣があるであろうに。

微笑を湛える彼の横顔は穏やかであり、
あるいは当時と比べれば凪ぎつつあるこの時代そのものを赦すかのようだ。
私はやっと焔の幻視から開放され、身に温度の感覚を取り戻す。

気付けばなんてことはない、ただのよくある夏の夕時だ。
あっけらかんとした暑さが私を包んだ。

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小春(プロフ) - 珈琲さん» 企画主様!閲覧ありがとうございます。(派生作品のご連絡遅れてしまってすみません……!) (2022年8月20日 18時) (レス) id: fb7c2aa482 (このIDを非表示/違反報告)
珈琲(プロフ) - 描写が素晴らしすぎる…!「その赤は激情か」お気に入りです。 (2022年8月20日 17時) (レス) @page2 id: 3ddce89f00 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:小春 | 作成日時:2022年8月11日 21時

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