045 Side : M.I ページ46
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「入野さんは絶対ここから出ないでください」
そう言い残してAが部屋を出て行ってから、10分ほど経った。
リビングからは昨日のような怒号は全く聞こえず、寧ろ物音ひとつ聞こえない。
そわそわしつつも、改めてAの部屋を見渡した。
一面が俺、否、“入野自由”のグッズやブロマイドで溢れていた。
正直最初こそ少し引いたが、ここまで本当に“推し”てくれていたんだと思うと、あの日出会ったのが奇跡のようだ。
部屋中の“俺”に囲まれた俺はこれ以上部屋を探る気にもならず、大人しく座ってAを待つことにした。
すると、音もなく扉が開く。
「入野さん」
Aがどこか嬉しそうに俺を呼ぶと、手招きした。
そのままAの母親がいるリビングのドアの前まで連れて来られる。
昨日のこともあって、少し緊張していた。
ぐっと握りしめていた拳を、Aが両手でそっと包む。
「大丈夫です、入野さん。何か言われても、わたしが入野さんを守りますから」
そう言ってにっこり笑ったA。
Aは愛おしさだけでなく、安心感も俺に与えてくれる。
ここがAの家でなかったら、力いっぱいに抱きしめて、「ありがとう」と何度も伝えていたのだろう。
今は控えめに、小声で「ありがとう」を告げた。
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作者名:莉兎 | 作成日時:2019年4月2日 16時