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「唇に、キスしてもいい?」
それは、もう戻らないということを意味していた。
何があっても。母とのことがどんな風に転んでも。
唇へのキスをしてしまえば、入野さんは私のことを、私は入野さんのことを、離すことができなくなるだろう。
“その先”は一年後であるとわかっていても、
“その先”を通り過ぎても。
何故だか、そう思うのだ。
真っ直ぐ私の瞳を見つめる入野さんを見ていたらそう感じられ、私もまたそう思った。
躊躇いながらも声を出さずに頷く。
顔が熱くて、入野さんに熱が伝わってしまいそうだ。
「・・・いい?」
「・・・二度も、訊かないでください」
「だって、Aファーストキスでしょ」
「そうですけど・・・」
十センチもない距離で話しているほうが、キスをするよりずっと恥ずかしい気がする。
入野さんは私の顎に指を添えると、
「・・・じゃあ、Aの“はじめて”、一つ目ね」
そう言って、顔を更に近付けてきた。
前言撤回。全然さっきより恥ずかしい!!
「め、目はどうすれば・・・!」
「好きにしてて」
そう言われても・・・!
と思っているうちにも、入野さんの顔はもっと距離を詰めている。
耐えきれずにぎゅっと目を瞑ると、唇に柔らかい感触を感じた。
「っ、」
「ん」
唇が離れたあとの入野さんの息づかいがとっても色っぽくて。
もっと体温が上がったような気がした。
何かを考え込んで目を逸らした入野さんは、私の首筋にかかった髪を避け、そこにも口付けをする。
なんだか何も考えられなくて、頭が真っ白になって、無抵抗で、ただただ恥じらいだけを感じた。
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作者名:莉兎 | 作成日時:2019年4月2日 16時