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そう言った声は優しさを含んでいて。
やっぱり私は入野さんが好きだなあと感じた。
「入野さんはラジオとかで聞いてるよりもずっと優しいですよね」
「いや俺いつも優しいじゃん」
「そうですか?」
声優としての彼を全て知っているわけではないが、少なくとも私の知る“入野自由くん”の優しさとは違う気がする。
そう伝えると、「そりゃ好きな子とそうじゃない人じゃ違うでしょ」と言われた。
いつも入野さんはそういうことをサラッと言う・・・。
「Aは友達と俺と接し方同じなの?」と訊かれたので、なんだか仕返しがしたくなって、
「私も友達には優しくしようと心掛けてますけど、入野さんは大好きすぎるから逆に意識出来ないです・・・」
少し照れたようにこう返した。
入野さんは数秒黙ったあと、「ちゃんと優しいよ」と笑って言った。
その後すぐに、「でも」と言葉を続ける。
「大好きすぎるって、かわいすぎ」
「・・・ちょっと狙いました」
「あーあ、隣に座ってたらおでこにキスでもしてやったのに」
かぁっと顔が熱くなった。
やっぱり入野さんには適わないようだ。
それからしばらく、今日の最終目的地だった海の見える小さな山にあるとある公園に辿り着いたのは、入野さんのお仕事の関係で待ち合わせ時間が昼過ぎだったこともあり、もう夕焼けが見え始める頃だった。
「今日はまたなんでここに?」
「んー、いつかAとも海外行きたいから遠出しようとは思ってたんだけど」
俺もAも都会っ子だから、あんまりこういうとこ来ないかなって思って。
まずは近めで有名なとこにしたんだよね。
そう言いながら水平線に沈む太陽を見る彼は、本当に雑誌やMVの中から出てきたようで。
何故か思わず、涙が頬を伝った。
「え?なんで泣いてんの?」
「・・・っ、なんか、入野さんが綺麗すぎて」
「綺麗な俺なんか何回も見てるくせに(笑)」
そう言って入野さんは私の涙を拭ってくれる。
なんだか、ふたりなら、何も恐くない気がした。
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作者名:莉兎 | 作成日時:2019年4月2日 16時