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その後は、やっと連絡先を交換して、家の近くまで車で送ってもらった。
「また連絡するから」
「はい。送ってくれてありがとうございました」
入野さんの乗った車が見えなくなるまで見送って、自宅のある方向に足を進める。
時刻は二十一時を回った。
空はもう真っ黒で、街灯と住宅の灯りが道を照らしている。
このときが一番憂鬱で。
入野さんや茜、学校の友達と一緒にいると楽しくて忘れがちだが、誰かと別れたこの瞬間に一番思い出される。
私には、足枷が付いているのだ。
それは見えるものではない。
私を遠くへ行かせまいと縛り付ける、母の目のことである。
「ただいま・・・」
「A!こんな時間までどこをほっつき歩いていたの!?まさかあんた、男でもできたんじゃないでしょうね!」
「違うよ、大学の友達」
「ただでさえあんたは趣味もおかしいんだから、生活くらい規則正しく送ってちょうだい!」
「私の趣味をバカにしないでって、何度言ったらわかるの?」
「何度言っても同じよ。嫌ならとっとと出て行きなさい!」
これ以上何を言っても無駄だな、と判断した私は、何も言わずに自室に戻る。
母が変わったのは私が中学生だった頃の離婚が原因だろう。
まだ義務教育も残っている私と親戚に身寄りのない母を残して、父が家を出て行ってしまった。
幼いながらに父と母の関係の悪化には気づいていたのだが、一人っ子で親戚もいないため、どうすることもできず。
母はよく一人で泣いていたのだ。
そんな母を置いて家を出て行くなんて出来ないと、いつも私の良心が叫んだ。
そして中学三年生のころ、初めて彼氏ができたとき。
母に紹介すべく家に連れて行ったとき、母は私と彼の恋人という関係を「汚らしい」と言った。
仕方のないことだと思う。
父とあんな別れ方をしたのだから。
もちろん彼には謝ったが、何がきっかけだったか、すぐに自然消滅してしまった。
それからというもの、母は私に対して、妙に過保護になっていった。
高校生の頃の門限は十七時。
バイトを許してもらうのにも一週間毎日土下座で頼み込み、始めてからもずっと嫌味を言われていた。
男友達と遊ぶのは禁止。
女友達の名前を全部ノートに書き込んで母に知らせること。
異常なまでに男関係に気を張っていた母。
入野さんとの関係がもしバレたら、私も入野さんも危ないのだ。
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作者名:莉兎 | 作成日時:2019年4月2日 16時