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「ねぇジャック、人魚姫の最後を知ってる？」
「ああ勿論」
「私が人魚姫なら王子様に愛されなくちゃ泡になって消えちゃうんだよ」
「……私がその王子様だと？」
少し恥ずかしくなって目を逸らせばジャックは低くクツクツと笑った後に堪えきれないとばかりに大袈裟に肩を震わせ始めた。ねぇ今ロマンチックな話をしてたと思うんだけど、遠回しに愛も伝えたんだけど、ねぇ。
「君は些か勘違いをしているようだ」
「勘違い？」
「私は君の王子様なんかじゃない。君の願いを叶える振りをして君の声を独り占めしようとする魔法使いさ」
逸らしていた視線を元に戻せばシルクの手で唇をす、と撫でられる。
「誰かの名前を呼ぶことを赦さずに歩くことにも苦痛を与え、最後には愛する人を殺せと囁く」
いかにも私だろう、とまた彼はクツクツ笑った。ああ確かに彼が王子様なんてお手軽なハッピーエンドはこの愛に似合わない。私は純粋で真っ白な人魚姫になんてなれない。
「ジャックは悪い人だ」
「今更だろう」
「そうだね、でも」
顎に添えられていた手に自身の手をそろりと重ねて、けれどしっからと指を絡める。
「刺してでも会いに来てほしいでしょ？」
そんな悪い人を好きになってしまった人魚姫はきっと王子様を刺してしまう。血を浴びて人魚へと戻り貴方に抱き締めてもらおうと深い闇まで泳いでいくのだ。
してやったりニヤリと笑えば、面白いほどジャックの動きが一時停止をしたかのように止まった。数秒経っても動かないもんだからジャック、と呼び掛ければ、それを合図に今度は空を仰いで高らかに大笑いし始めた。大丈夫か、壊れたか。
「ジャック」
「ああ、ああすまない、どうにも笑いが、ふふっ込み上げてしまって、ふふっ、すまない、」
「殴るぞ」
「こら、レディがそんなこと言うもんじゃない」
そう言うやいなや彼は大きな刃が私の背中を拐って逞しくも優しい胸板との間に閉じ込める。手は繋がれたままでドクドクと心拍をお互いに感じている。
「血濡れた君もさぞ美しいだろうな」
「悪趣味」
「それも今更だ」
どんな汚れた人魚姫でも貴方が愛してくれるのなら、泡になんてなってやらない。
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はよ帰れよ
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作者名：かたまり | 作成日時：2019年8月12日 2時
