続き ページ16
「美味しいですか？A先輩」
『はい、とっても。って私の名前知って…」
突如名前を呼ばれてAは驚いた。ていうか私の名前知ってたんだ。
「そりゃ、知ってますよ。同じ会社で働いてたじゃないすか。部署違いましたけど」
Aは彼が自分のことを知っていて少し嬉しかった。
首を傾け薄い笑みを浮かべて話す彼はこのカクテルの様に妖艶な雰囲気を醸し出していた。改めて顔をよく見ると端正な顔立ちでバーテンダーという仕事が様になっている。
『あ、貴方の名前は？そういえば知らない』
Aはふと思い出したかの様に聞いた。
「俺すか？ショッピです。この店ではそう名乗ってます」
『そうなんだ…。なんで急に会社辞めたの？ここに転職したの？』
嫌な顔をされるが知れないが、覚悟して聞いてみた。すると、ショッピは嫌な顔１つせず答えてくれた。
「まぁ、そうっすね。この店は副職でやってるんすけどね」
『え？今は主職は？』
「普通に経営会社です。小ちゃいとこっすけど。学生の時の先輩にこの店で働かないかって誘われて。楽しそうなんで来てるんす。けど、ちゃんと仕事はしたいからブラックなあの会社辞めて転職して、今は転職先の経営会社と副職でここ来てます」
『そうだったんだ……』
Aはまた質問をショッピに投げた。
『ショッピくんはこの仕事楽しい？』
「楽しいですよ。そりゃあ、大変な事にもありますけど。先輩方が面白い方ばかりで」
最初に会った時と違って、彼が頬を緩ませて話す様はとても楽しそうだ。本当にこの仕事が好きなんだなとAは思った。
『へぇ、どんな先輩』
「どんな、そうですね。女性客ナンパする人とか、皿割る人とか、騒がしいですよとっても。でも、しっかりして周りをよく見る人とかいるんで。どうにかやってますよ」
Aはこのお店は奇想天外な事ばかりだと思った。只者のお店ではないのかもしれない。また違う日にでも来ようかな。
「Aさんにも先輩方紹介したいっすわ。ほんと、個性が強くて」
困った様な顔をして。頭をかくショッピ。それがなんだか面白くてAは思わず笑みが溢れた。
「良かった」
にへらと笑いながらショッピはAに顔を近づけた。
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作者名：雪だるま | 作成日時：2019年10月23日 21時
